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象と耳鳴り―推理小説 (祥伝社文庫)

恩田 陸
祥伝社
ISBN: 4396330901  紀伊國屋, Amazon, WebCat
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素光 : 退職判事関根多佳雄を謎解き役に据え、初老男性の豊富な知識と落ち着いた視点で事件や日常生活の中に潜む謎を解くオムニバス短編集。裏表紙の作品紹介には「なにげないテーマに潜む謎を、鮮やかな手さばきで解き明かす論理(ロジック)の芳醇なる結晶」とあるが、私が読んだ限りでは、超自然的な設定が絡む作品を多く手がける恩田陸らしい曖昧や混沌を適度に残した雰囲気の作品が多く、「鮮やかな手さばきで解き明かす」という謳い文句はやや違うのではないかという気がした。また、その作品がもたらす曖昧や混沌といった雰囲気に、主人公である関根多佳雄氏があまり馴染んでいないように感じた。作品の雰囲気も関根多佳雄のキャラクターも、個々ではそれぞれ魅力的なのだけど。ちなみにこの関根多佳雄氏は、著者のデビュー作「六番目の小夜子」の登場人物関根秋の父親であり、短編集の中には彼の兄・春と姉・夏も登場する。 読み終わった全12篇の内、感想を幾つかリストアップ。 曜変天目の夜 : 美術展に貴重な焼き物を見に来た関根多佳雄氏が思い出す、かつての知人の死とその真相。高校生男女を主人公に据えた作品では描けない、関根多佳雄氏の視点だからこその「老い」「死」を扱った作品。「人間は肉体という釜の中で焼かれる作品で、人生が終わるまでどんな作品(或いは失敗作)が出てくるかはわからない」という言葉が重い。あと曜変天目茶碗は機会があったら本物を見てみたい。 往復書簡 : 地方新聞社に就職したばかりの姪の周辺で起こる謎の放火事件を、関根多佳雄氏が手紙のやりとりから解決に導く。この短編集の中ではいちばん好きな作品。話が自然で謎解きが論理的であり、また話が関根多佳雄氏の人柄に馴染んで感じたのが理由である。また、手紙の文面から把握できる姪の孝子嬢の人柄も関根多佳雄氏と同じぐらいまたはそれ以上に好ましかったのも良かった。 魔術師 : 引退した判事に招かれて彼の郷里を訪れた関根多佳雄氏が、その地方に密かに広がる都市伝説の謎に迫る。恩田陸の初期作品「六番目の小夜子」「球形の季節」辺りを彷彿とさせる、地方都市と伝承を扱った作品。謎の解明という点ではいまいちしっくりこないが、都市伝説という題材である以上明確な答えが提示できるものであっては逆におかしいだろうし、最後まで曖昧な部分も含めて初期作品の雰囲気を思い出してなかなか良かった。また作品中に出てくる「都市が『大きくなりたい』という意志を持つようになる」という言葉は、フィクションの枠を飛び越して共感できる話だと思った。
daichi : 『今って、本当に手を触れることが減っているでしょう。キーボード越しのやりとり、受話器越しのやりとりで、パソコンやフロッピーディスクの中に、見えない情報が蓄積されていく。この中に探しているものがあるよと言われても、その情報量が実感できない。このイライラって、あれなんですね、閉架式の図書館に行った時の感覚。普通の図書館なら、ぶらぶら歩いて目に留まった本を抜き出して、本を撫でてさすって拾い読みをして、その本の持つ情報を感じようとする。司会の片隅になんとなく入っていたフレーズが、後で気が付くと重要な意味を持っていたりする。でも、閉架式の図書館ではそういうことができない。検索して選んだものしか見ることができない。そういう、無意識のうちに得ていた情報が、どんどん手の届かないところに行っているような気がするんです。もちろん、膨大な情報を検索し画面に呼び出すということで、それまで手作業でやっていたことに比べれば作業の能率は桁違いに優れているのでしょうが、今、世界全体が、閉架式の図書館になっているんじゃないでしょうか。いろいろな情報が手に入るようでいて、かえって手に触れることのできない情報、見せてもらえない情報がそれ以上に増えているのではないでしょうか。電子メイルでのやりとりも、手に触れることがないうちに消去されて、人知れず何もなかったかのように真っ白な画面が残されている。そのうちに、何かの拍子に全てがリセットされて、人類の歴史の蓄積そのものが消滅してしまうんじゃないかなんて妄想を抱くことがあります。』(「往復書簡」p244)
sweetest deads : 独特の居心地のある、場所フェチ心をそそる短編集。
他の本棚 餅好, 素光, joulli, jinc, daichi, Nakata, sweetest deads, pixy

最終更新 : 2005-10-07 23:53:38 +0900
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