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ハッカーと蟻

ルーディ ラッカー
早川書房
ISBN: 4150111618  紀伊國屋, Amazon, WebCat
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べ_deleted000 :  ハッカー作家,ルーディ・ラッカーの1994年の作品 (翻訳が出たのは96年)。一昨年までアップルのWWDC (World Wide Developer's Conference) の開催場所だったサンノゼのダウンタウンが舞台だったりして (主人公が盗聴を恐れて「サンノゼのフェアモント・ホテルの前にあるうるさい噴水のそば」でわざわざ会話をしたりする) 楽しい。
 いや実際,同じ作者のこれまでの作品に比べて,時代,技術水準その他が現実に近いものに設定されているせいで,特にこの業界に身を置くワタシとしては実に身近な (身につまされる部分も含めて,ね) リアリティのある作品である。以下おおまかなあらスジ。
 シリコン・バレーの最先端企業で家庭用ロボットのソフトウエアを開発している主人公ジャージーは,ある日サイバースペースで一匹の「蟻」を目撃する。会社のスター・プログラマー,ロジャー・クーリッジが開発していた人口生命体だ……。「蟻」はやがて増殖し,まるでウィルスのようにサイバースペースを侵食しはじめる。「蟻」をネットワークに放った犯人として告発されたジャージーは会社も解雇され孤立無援に……。
 とまぁ,スジとしてはなんつか「ハイテク企業陰謀モノ」みたいな感じなのだが,そっちの謎解きは例によって本質ではない。物語のキモは遺伝的アルゴリズム (ああ懐かしい,「バラ」を作った時勉強したぜ) によって淘汰されたロボットの「知性」が「繁殖」する可能性を探ることにあり,またそのような「知性の爆発」にはほぼ無限といっていいサイバースペースを舞台に変異と淘汰が実践されなければならない可能性を示唆している部分にあるのだ。…わかりにくいですか? 読むとわかります(笑) 。
 このヒトが好きなのは,実際自分でもソフトウエアを書くエンジニアでもあるところ (だけでなく「数学者」でもあり,なにより「ガイキチ」だったりするんだが) 。以下のような部分,プログラマーでなければ書けない感覚だと思うんだよね。
 新しい言語や新しいマシンを相手にする時はいつもそうだが,だれかが,「ほらよ,ジャージー,こいつが部品番号のリストで,こいつがその部品を使って組み立てられる自動車の写真だ」といい,最初のうちは,「くそくらえ,いままで使ってた古い部品で車を組み立てるやりかたならちゃんとわかっているんだ」と思うのだが,やがて好奇心が首をもたげて,新しい部品を使いはじめる。新しい部品は妙な形をしているが−なじみのない論理にもとづいてつくられているから,最初のうちは納得できない−やがてなんとか車輪を一個作ることに成功し,それがちゃんと転がると,もっと興味が湧いてきて,その新しい論理を使ってどんなクールなことができるのか理解しはじめ,そのころにはもう頭の切り替えがすんでいる。こういうことに意欲を燃やし,それを自分で何度も遂行できるという事実が,ぼくをハッカーたらしめているのだといってもいい。
 おっと為念,この本では「ハッカー」は「出来のいいプログラマー」,「ハッキング」は「クールなプログラミング作業」という意味で使われている。つまりシステム破りを意味する「クラック」とははっきり分けているので注意してほしい (同じことを「クリプ」と言ったりしてるけどね) 。一応,書いておかないと……。今のニッポンぢゃ主人公と同じ誤解を受けるかも,だからね。
他の本棚 joesaisan, yusasa, matznaga, hide-t, km, ogijun

最終更新 : 2004-09-02 23:54:35 +0900
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