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調律師の恋

ダニエル=フィリップ・メイソン
角川書店
ISBN: 404897209X  紀伊國屋, Amazon, WebCat
カテゴリ 小説
評  価
コメント
Leiko : 19世紀のロンドンから戦禍のビルマヘと旅立ったピアノ調律師の物語。
私は楽器に疎い。音楽をやっている友人知人は星の数ほどいるのに、私自身は驚くほど何にもできない。だから、ピアノのこともよく分からないのだけれど、とあるきっかけで知り合った調律師さんのおかげで、ピアノという楽器自体の美しさを知った。あらためて考えてみると、ピアノという楽器は、実に複雑で繊細で美しい。無駄のない、完璧な、それでいて狂いやすい危うさを持つその美しさは、例えばからくり時計の機構を見たときの印象に、少し似ている。楽器であるという以前に、ピアノはあくまでもピアノとして美しい、そんな気がする。
この本は、ピアノという楽器でなければ成立し得ない物語だと思う。特に、その狂いやすい危うさが持つ美しさが、戦渦の迫るシャン地方に残るゆったりとした空気、そこにピアノを運ばせた軍医、知的で少しコケティッシュな一面もある神秘的な女性、そしてそれらが織り成す運命に巻き込まれてゆく主人公の調律師ドレークの内面、全てをまとめあげる役割を果たしている。
ところで、調律師である主人公のドレークは、先述の私の知人の調律師に、驚く程よく似ている。調律師というものはすべからくこのような性格ではなかろうか、と錯覚してしまいそうなほどに。そのせいで、鮮やかすぎる感情移入をしてしまった。あらゆる凄まじい局面をくぐり抜けてきたピアノを前にしても、全くたじろがず、ただ調律という作業に没頭するドレーク。私の知人だって、きっとそうするだろうと思わせる。ピアノそのものを愛する様も、そっくりだ。それが彼ら調律師の流儀なのだろうか、性分なのだろうか。いずれにせよ、ドレークという人物の印象が、読後に強く残った。

余談。
この本を読み終えて、一息ついて、そのへんに積んであった本の山から、何気なく『雲遊天下』33号を手に取った。適当にページを開けると……ビルマ・シャン州紀行(by.森下ヒバリ)が。……シ、シンクロニティ!?
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最終更新 : 2005-03-25 01:13:49 +0900
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