海外文学読んだ本 英米文学
窓ガラスを軽くたたく音が二、三度聞こえ、彼は窓のほうへ目をやった。ふたたび雪が降り出していた。彼は眠そうな眼ざしで銀や黒の切片が街灯の明かりを背景にして斜めに降るのをながめた。自分も西への旅に出る時が来た。まさしく、新聞の通りだ。雪はアイルランドじゅうに降っている。暗い中央平原の各地にも、木の生えていない丘陵にも降り、アレンの沼地にもやさしく降り、さらに西では、暗く騒ぎ立てるシャノン川の波にもやさしく降っている。またマイケル・フェアリーが埋葬されている、丘の上の淋しい教会墓地の至る所にも降っている。歪んだ十字架や墓石の上に、小さな門の槍の先にも、不毛な茨の上にも厚く降り積もっている。彼の魂はゆっくりと知覚を失っていった。雪が宇宙にかすかに降っている音が聞こえる。最後の時の到来のように、生者たちと死者たちすべての上に降っている、かすかな音が聞こえる。(p.406)