近未来。日本は腐りきった民主主義政治を捨て、国民クイズ体制へと移行していた。
国が放映するテレビ番組「国民クイズ」は国権の最高機関である。そこで勝ち残った者の願いは、世界第一位を独走する日本の国力を行使して必ずかなえられる。「迷子の犬を見つけて」「百億円欲しい」「夫の不倫相手を殺して」「エッフェル塔をわが町の新名所に」などなど。だが敗者は反社会的な欲望を持った罰として、犯罪者の烙印が押されるのだった。
かつて国民クイズに挑戦するも敗退した主人公は、刑罰として強制的に国民クイズの司会者に従事させられている。しかし抜群のカリスマ性を発揮し、今や彼は国民の圧倒的な支持を得ていた。そんな彼を利用しようと様々な権力が暗躍する。
とにかく無茶苦茶な設定にも関らず妙なリアリティがあるのは、そこに描かれているキャラクターが非常に人間くさいからだ。国民クイズはあらゆる人間の欲望を露わにし、そしてそのすべてを飲み込む。その描写は露悪的だが痛快で、悲しくも笑ってしまう。荒唐無稽な物語を支える加藤伸吉のダイナミックな描線も気持ちいい。
徹底した娯楽作でありながら、様々な問題提起も感じずにはいられない佳作。
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