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秒針を止める放浪者―ヴァムピール・アリトス (角川ビーンズ文庫)

榎田 尤利
角川書店
ISBN: 4044491038  紀伊國屋, Amazon, WebCat
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素光 : シリーズ第3巻。あとがきに「これで一段落」とあった。キリが良いと言えば良い、早いと言えば早い一区切りであるが、「ラノベの対象年齢が幅狭いものである以上、だらだらと続けるのは読者・著者双方にとってマイナス」と考える私には好印象(淋しさを感じつつも)。

科学信仰志向の男子高校生が、突然現れたヴァムピール(非科学的存在)に行動も思考も振り回されながら、同級生の問題児コンビと友情を深めたり、クラスで浮いた存在の少女が徐々に立ち直るのに手を貸したり、陰湿な苛めを加えられ自身の過去と対決したりする物語。目新しさはないながらも(というか今時吸血鬼ネタで目新しさを求めるほうが無謀)、人物や物語の描写が厳し過ぎず媚び過ぎず細やかで適度に暖かく、読んでいて心地良かった。また今刊で気がついたが、この作品は作品内世界の時間経過が刊行ペースとリンクしている。1巻が出たのが昨年の6月末なので、物語世界も始まりからちょうど1年が経過という、このペースも何だか安定感があって良かった。

今作では、教師として主人公周辺に潜り込んでいるアリトスが、主人公の友人に対し「自分で自分を『ナンパで不真面目な生徒』と演出しておいて、都合の悪いときだけ中身を見てくれなどと、甘えたことをぬかすな」等と厳しい言葉を投げかけるのと同様、人間の捕食者である自分の存在についても甘えを許さず幻想にすがらない、「自他共に厳しい」姿が印象に残った。あと、鬱屈した性格で素材の良さを台無しにしていた優等生理利が現状を打破できた秘訣が「人の目を見て自分との距離を測る、自分を本当に嫌っている人は嫌悪感を目に浮かべるからすぐわかる」とあったが、これは吸血鬼を見抜く能力を持つというダンピールだからこそ為せる技で、通常の人間がそれをできたら何の苦労もないじゃんと真面目に羨ましくなったりした。
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最終更新 : 2005-09-04 12:07:55 +0900
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