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権利のための闘争 (岩波文庫)
イェーリング
岩波書店
ISBN: 400340131X
紀伊國屋
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監獄人 :
肉体的な痛みは生命体における故障の信号、生命体にとって危険な影響力の存在を告げる信号である。それは切迫した危険について注意を促し、われわれに与える苦痛によって、用心せよと警告してくれる。意図的な不法や恣意的な行為によって加えられる倫理的苦痛(倫理的存在としての人間の精神的苦痛)についても全く同じ事が言えるのである。倫理的苦痛は、肉体的苦痛と同様に—それぞれの主体の感受性の違い、権利侵害の形式や対象の違いによって—強いものもあればそれほどでもないものもあるが、もう無感覚になってしまっている人間、つまり現実の無権利状態に慣れ切ってしまっている人間は別として、あらゆる人間に倫理的苦痛として受けとられ、肉体的苦痛と同様に警告を与えるものである。ここで私が念頭に置いているのは、現実の痛みを止めるための速効的警告よりはむしろ、黙って苦痛に耐えているだけでは損なわれてしまう健康を維持するための、長い目で見た警告であるが、いずれにせよ、肉体的苦痛が肉体的自己保存の義務を果たせと警告するように、倫理的苦痛は倫理的自己保存の義務を果たせと警告する。
自分の権利を侵害された人間は苦痛を感じるが、これは、権利が自分にとって—まずは自分自身にとって、そしてさらに人間社会一般にとって—何であるかについての本能的な、(権利侵害によって)強引に誘発された反応なのである。この一瞬に、激情というかたちをとって、つまり権利の真の意義、真の本質についての直接的感覚というかたちをとって、長年にわたる権利享受によってはわからなかった多くのことが鮮明になる。権利侵害によって自分自身ないし他人がどんなに大きな苦痛を受けるか経験したことのない者は、六法全書を全て暗記しているとしても権利の何たるかを知っているとは言えない。理解力ではなく感覚だけが、権利の何たるかを知るために役立つのである。したがって、すべての権利の心理的源泉が一般に権利感覚と呼ばれているのは、もっともである。権利の力は、愛の力と全く同様に、感覚にもとづいている。
権利は人格の倫理生存条件であり、権利の主張は人格自身の倫理的自己保存にほかならない。
健全な権利感覚は、劣悪な権利しか認められない状態に長い間耐えられるものではなく、鈍化し、萎縮し、歪められてしまう。
敏感さ、すなわち権利侵害の苦痛を感じとる能力と、実行力、すなわち攻撃を斥ける勇気と決意が、健全な権利感覚の存在を示す二つの標識だと思われる。
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最終
更新
: 2004-09-01 20:13:03 +0900
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