「ウェブ進化論」の梅田さんと、作家の平野啓一郎さんの対談です。まあ、対談なので安く作られている感は否めませんが、その分、すっと読めます。
この二人、とても頭がいいとは思うんですが、それぞれの著作があんまり私の趣味じゃないのでどうかと思っていたんですが、それでもなかなか示唆に富んでいました。丁度、大学に入ったころに「ネットワーク社会における仮想人格の取り扱い」なんてテーマで仲間と酒を飲んだりしたもんですが、そのころみんなで考えていたようなことが、今や日本国民全体のテーマになったんだなあという感慨があります。
いくつか、ポイントを抜き出してみましょう。
p48 梅田 今後、五年ぐらいの間に、オピニオンリーダーが面白いと言ったものが自動的に浮かび上がる仕組みだけでなく、オピニオンリーダーが誰かというのが多くの人の評価によって決まって(中略)くるような仕組みが見え始めてくるはずです
数年前の2ちゃんねるが爆発的に取り上げられだした頃、あまりにも散逸的な情報が多すぎて、ネット世界でのコンセンサス作成があまりにも絶望的な状況になって、興味を失っていた時期があったんですが、ここしばらくは落ち着いているようですね。ソーシャル・ブックマークや、いわゆる「まとめサイト」の充実などに依るんでしょうか。ただ、この梅田さんの楽観的な見方に対して、集団が大きくなって衆愚へとなっていくという心配を平野さんはしてます。うーん、10年前ぐらいによくこういうこと、話したわ(笑)
p72 平野 僕はネットでブログをやっている人の意識って、だいたい五種類に分けられるんじゃないかと思ってるんです。
続けて、以下の五種類を提示します
- リアル社会との断絶がない。実名で礼節あるやりとり
- リアルで発揮しづらい自分の表現の場
- 公開することの意義を強く意識しない日記
- 抑圧された本音を語る独白
- ネット上に切り離された別の人格
後ろの2つのネガティブな側面に作家としての平野さんは興味を持ってるみたいです。わかる気もするし、この分類自体、語る価値のあるものですな。ちなみにこのブログは真ん中ですな。また、匿名というものにも興味を持っていて、ブログを実名で書きづらい日本人の感覚に対して分析的です。
他に、非常に面白いと思ったのは「検索空間を制御する」という梅田さんの考え方。
p105 梅田 毎日毎日ブログに何でもいいから書いていれば、(検索結果は)案外コントロール可能なんですよ。検索結果の百件目以降は、ほとんど誰も見ないもの
企業が企業価値を高めるために、自分のサイトの「サーチエンジン最適化」をすることは今では珍しくもなんともないですが、個人の名前に対しても悪質な情報やイメージダウンに繋がる罵詈雑言が検索の上位に来ないようにするために、こちらが見せたい情報を絶えず発信して自分が必要とする検索空間を埋めておくということです。もっとすごーく有名になってしまったら難しいかもしれませんが、なるほど、面白い考え方です。
他にも、紙に出版する意義や、著作物の何処までを公開とすべきかの考え方など、なかなか参考になる意見が多く含まれています。二人の意見どちらにも、同意できるものもできないものがありますけど、まず、こういう論点があるというのを押さえるという意味で、現代のメディア論をする上で最低限読んでおくべき1冊だと思います
|