hondana.org
本を探す

 


Scrapbox
書籍追加 | 本棚情報変更 | 名前変更/本棚削除 | ヘルプ | ランダム

Fms
イヴの七人の娘たち
イヴの七人の娘たち
著者: ブライアン サイクス
出版社: ソニーマガジンズ
評価: ★★★★☆
カテゴリ: 生物学
コメント:  かなり前のニュースだが,覚えているヒトもいると思う,ミトコンドリアDNAの分析から,現代人全ての「母」にあたる女性が15万年前のアフリカにいたことが判明し,彼女は当然ながら「イヴ」と名付けられた,という話だ。この本はあの研究を行った,オックスフォード大学人類遺伝学教授ブライサン・サイクスそのヒトが,その研究内容を一般向けに噛み砕いて解説したノン・フィクションである。<BR>  この研究のよすがである「ミトコンドリアDNA」とは,細胞質にあって人間の活動エネルギーを生み出す働きをしている器官である。このミトコンドリアのDNAには,他の遺伝子と違って母方からしか受け継がれないという便利な特徴がある。昔バラの育成シミュレーション・ソフトを書いた時に出て来た植物における「細胞質遺伝」というのと同じようなものだナ。おまけにこのミトコンドリアDNAは,約2万年に一度の割合で突然変異を固定することが分かっている。なので例えばこれを読んでいるアナタとオレのミトコンドリアDNAを比べて,その違いの数を数えれば二人の共通の先祖 (母系) までどのくらい遡れば到達するのか,だいたい万年単位でわかる,という寸法なんですね。<BR>  ……とは言え,それを実証するまでミチスジはもちろん平たんなものではなく,波乱万丈ヤマナカシカノスケなノン・フィクションになっている。なかでもワタシの心に残ったのは,かのヘイエルダール (こないだ亡くなった) が,コン・ティキ号で「実証」したポリネシア人の南米起源説がミトコンドリアDNAの研究ではっきりと否定されていたことである。これ,言葉は悪いがもっと宣伝すべきだと思うなぁ。まだまだ堅く信じているヒトが周りにたくさんいそうである。<BR>  結論として現在イヴの子孫には35の系列があることが判明している。このウチ東ユーラシア系はアメリカ系を含めて7系列ある。自分のDNAがどの系列かを知りたいヒトは,オクスフォードの研究所サイトに申し込むことができ,その<a href="http://www.sonymagazines.jp/mmt/200111080710">日本語インストラクション</a>がこの本の出版社,ソニーマガジン社に用意されている。やってみます?<BR>
関連本棚: どら Anemonefish taku takoyakim スー takchabo ogijun
Fms
未知なる地底高熱生物圏―生命起源説をぬりかえる
未知なる地底高熱生物圏―生命起源説をぬりかえる
著者: トーマス ゴールド
出版社: 大月書店
評価: ★★★★☆
カテゴリ: 生物学 地学 物理学
コメント:  実はこの邦題はあんまり出来がよくなくて,いったい何の「生命起源説をぬりかえる」んだか分からないと思うが,これは石油,石炭,天然ガスなどのいわゆる「化石燃料」の生命起源説のこと,早い話が石油も石炭も「化石燃料」なんかぢゃあねぇ,と主張する本である。<BR>  以前読んだ「トンデモ科学の見破りかた〜もしかしたら本当かもしれない9つの奇説」(ロバート・アーリック著)のなかでとりあげられ,「トンデモ度ゼロ(本当であってもおかしくない)」と判定されていたのに興味が湧いて買ってみたのだがいやはや恐れ入りました。小学生の頃理科の授業で,石油石炭は大昔の生き物の化石が地面の下でよくわかんない変化を遂げたものと教えられて以来固陋蒙昧なる生物起源説信奉者であった不肖フジモト,前非を悔いて本日よりこっちにコロビます。そうはいうがあんたこれは「第二の地動説」かも知れないよ。<BR>  以下ゴールド先生(いきなり先生扱いである)の主張をごく大雑把に総括してみる。<BR>  生物起源説はもともと,石油などの還元燃料は二酸化炭素が還元されたものであり,地球上で二酸化炭素を還元して同化することが出来るのは葉緑素を持った植物(生物)だけだから,石油はその死骸の成れの果ての市兵衛さんに違いないという。しかしこれが正しいとすれば,光合成の能力を獲得する前の生物はどうやって自分の身体を形成していたのか,生命は発生と同時に炭素同化能力を持っていたというのか,それはちとありそうもない。<BR>  最近の研究により,太陽系の多くの惑星,衛星などがその内部に炭化水素を多量に含有していることが判明した。つまり生命のいないよその星にも石油と同じく酸素と反応して二酸化炭素とエネルギ−になる物質が存在しているわけだ。とすれば,なんで地球の炭化水素だけがそれらとは違って植物のみなさんの光合成努力の賜物であるのか。モノゴトに二種類の説明があったら単純な方がより正解に近いんぢゃなかったのか(オッカムの剃刀ですな)。<BR>  シンプルでしょ? そして先生はこの自説を証明すべく,生物起源説によれば絶対に石油なんか出るはずのないスウェーデンの原野を試掘し,商業的には採算ベースに満たないものの決して「微量」とは言えない石油と磁鉄鉱のペーストを掘り出してしまう。しかし有力な科学雑誌はこれを黙殺「受理して掲載するにはほかの研究チームによる調査結果の再現が必要」とかほざくのである。あのなぁ花崗岩の原野に深さ6キロの穴を掘るのにいくらかかると思っているのだ。この理屈は「アメリカ以外の国が月から石を持ち帰るまであれを『月の石』とは認められない」というコトだぞ。<BR>  てなわけで,いつのまにかゴールド先生の憤懣まで身に背負ってしまったワタシだが,とにかくこの本は科学好きには絶対に面白い「極私的2004年輝け面白科学本大賞」最有力候補(邦訳が出たのは2000年だけど)の一冊なので,御用とお急ぎでない方はじっくり腰を据え,この「第二の地動説」を吟味してみてくれたまえ。
関連本棚: 増井
Fms