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闘蟋―中国のコオロギ文化 (あじあブックス)
闘蟋―中国のコオロギ文化 (あじあブックス)
著者: 瀬川 千秋
出版社: 大修館書店
評価: ★★★★
カテゴリ: 道楽 文化 中国
コメント:  日本にもある闘鶏や闘犬さながらにオスのコオロギを闘わせる,そういう遊びが中国にあるというのはなんかで読んで知っていた。が,これほど深いもんとは思わなかった。深いだけでなく歴史も古い。唐代玄宗皇帝のころというから8世紀の初頭には既にコオロギを闘わせる遊びが流行し,都の金持ち達はこれに莫大な金を賭けていたらしい。うーん,唐ですか。<BR>  と,オレだけ勝手に感心していても始まらないのでまずは競技のあらましを紹介しよう。例えば10人,虫主(虫の飼い主のこと)が集まって闘蟋を開催するとすると,皆それぞれ10個あまりの素焼きの壷(養盆という)を持って現れる。1つの養盆に1匹のコオロギが入っており,内部の調度は鈴房(ベッド)に水皿に飯板,ほとんど後楽園ホールのボクサーの控え室という風情である。<BR>  試合に先立って厳密な体重測定が行われるのもボクシングと同じだ。闘蟋は基本的に体重の同じムシ同士で闘われる。自分の戦士の計量が終わった虫主たちは,彼等(思わず擬人化する)の戦意を高めるため,それぞれ自分が効果ありと信じる「最終調整」を行う。ある者はコオロギを熱気から護るために養盆ごと廊下に持ち出し,ある者は養盆にメスを入れて交尾をさせる,虫を手のひらに入れて振る者,養盆の蓋をわずかに持ち上げて息を吹き込む者いろいろだ。<BR>  やがて試合が始まる。闘盆と呼ばれる浅手の鉢(最近は観やすいようにアクリルの透明なものが主流なんだそうだ)の中央に仕切りが置かれ,それを挟んだ両側に戦士が1匹ずつ放される。茜草と呼ばれる細筆のような道具の先で彼等をつついて挑発し(これはつまり相手の触覚が体に触れたと思わせてコオロギの縄張り意識を刺激するわけだ),双方牙を剥いたところで仕切りを取り外す……。<BR>  とにかく全ての局面においてノウハウ,ウンチク限りのない趣味である。やれ養盆を焼く土はドコに限るとか,晩秋には水皿をそれまでの5mmほどの深さのものから3mmのものに変えないといけないだとか,茜草には生きているネズミのヒゲを引っこ抜いて使うべきだいやオヒシバ(イネ科の1年草)の茎の繊維にエノコログサの細い茎を芯として挿し入れそれを蒸したあとで日に干してハエの頭の血を少しつけたものこそ霊験あらたかだとか,どんなメスがヤマノウチカズトヨの妻となって内助の功を発揮するかだとかどんなメスが強力無双の戦士をスポイルしてしまうかだとか,これでもかこれでもかと中国人は際限なく探求記録しちゃう。とにかくひとたびこれを読めば,コオロギを飼ってみたくてウズウスすること必定である。お金があって戦争が終わって例の肺炎騒ぎがおさまれば今年の秋には上海の虫市に行きたい!
関連本棚: サントリー学芸賞
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