コメント: |
表題作は、ずっと前に単行本を読み始めで投げ出しっぱなしだったのだが、文庫になったのを機に読み直してみたら、非常に面白い作品だったことに気付いた。あー、投げ出して失敗した。<br>
山形を彷彿とさせる地方の、電車通学の高校生たち。あんまり頭がよろしくない彼らは、電車の中でもなわばり争いをしたり粋がったりするのだが、もう全編方言まみれ。ずっと昔、山形に近いうちの田舎で、県内の地方都市対地方都市を企画して、そこに住む若者が「どっちが都会か」言い争うテレビ番組の企画があったが、あれを思い出させる馬鹿馬鹿しさだ。この人の作品は、ばかばかしいほど滑稽なことを、真剣にやっている人たちを描くことが多く、何となく記憶の中に痛いものを思い起こしながらも、一気に物語に引き込まれてしまうんだよなあ。<br>
併録されているもう二篇も、また違ったトーンが楽しめてそれぞれにいい。特に「公爵夫人邸の午後のパーティ」の馬鹿馬鹿しさったら無い。これは、三島由紀夫の「恋の帆影」なんかをちらり彷彿させる小品だと思う。<br>
これに出会わなかったら、阿部和重の面白さに気付くこともなかったように思う。オールタイムベストに入るかも。 |