人間の身体が産出するエネルギーの多くは無駄に使われている。特に不必要な筋肉の緊張に浪費されているとグルジエフは弟子らに指摘し、自己修練ではまずこの点に注意を向ける必要があると説く。以下の引用でグルジエフは人間の身体を工場に喩えて説明している。
「工場の働き一般について語るときには、産出量を増やすことに何らかの意味があるという前に、不必要な浪費を止めることが必要であることをはっきりさせなければならない。もしこの不必要な浪費が続き、対策が何一つ講じられないまま産出量が増やされても、産出された新しいエネルギーはただこの浪費を増やすだけだ。いやそれどころか不健康な類の現象さえひきおこすかもしれない。だから、いかなる肉体的な自己修練にも先立って習得すべきことは、筋肉の過緊張を観察し、それを感じ、必要に応じて筋肉を弛緩させること、つまり不必要な緊張をゆるめることだ。」
グルジエフは弟子たちに、筋肉をしだいにゆるめるさまざまなエクササイズを与えたが、それは常に顔の筋肉から始まったと、ウスペンスキーは回顧している。
じぶんが推測するに、グルジエフは表情筋と呼吸筋の連動をよく理解していたのだろう。まず顔の筋肉をゆるめるところから体幹の深部筋群への波及効果を狙ったのだ。
さらに付け加えると、身体のコントロールを得る最初のプロセスとして、ウスペンスキーが重視した「脈拍の制御」は、心臓の筋肉そのものに直接働きかける方法ではなく、グルジエフの指摘する筋肉の過緊張をリリースする方法をつうじて多くの理解が得られたと記している。
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