小島寛之先生の本棚です。
この式は、「質量に加速度を掛けたものが力である」ということを表しているのでは決してない。この式は「物体mに力Fを加えられたならば、その結果として加速度aが生じる」という因果関係(原因・結果関係)を表しているのである。右辺と左辺が等しいというのは量的関係だけで、概念的意味内容としては右辺と左辺は異なる。つまり右辺は運動の変化の原因としての加えられた力であり、それは単なる数学的定義に帰し得ない実体的起源をもつ。他方、左辺はその結果として生じた運動の変化の割合を表している。(中略) 。運動方程式はあくまでも物理的な因果関係を表しているのであり、力の定義式では決してない。
以上の議論でわかるように、力学の原理において力はきわめて重要な役割を果たしている。しかし現実にはどのような力が存在するのか、それらの力はいかなる性質をもっているのかは、一般に経験事実として与えられていると考えなければならない。つまり古典力学の内部で論理的に導き出せるものではない。