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ここ数年,主にサイバースペースを舞台に繰り広げられている知的所有権論争を考える上で重要な著作と言えるだろう。<BR>
タイトルになっている「コモンズ」とは簡単に言えば公共のリソースのこと。こうしたリソースには競合的なものと非競合的なものがある。競合的なものとは,例えば牧草地の牧草のように,誰かが消費すると他の誰かが消費できなくなる種類のリソースであり,非競合的なものとは,例えば数学の定理やアルゴリズムのように,誰かによる使用が他の誰かの使用を妨げないもの。<BR>
本書でレッシグは主に後者のようなリソースに対して前者に対するようなコントロールの網を被せることの愚を説く。すなわち,非競合的なコモンズとして機能しそれゆえに数々の革新的なイノベーションを産み出して来たインターネットが,そのイノベーションが自らの既得権益に対する脅威となると考える勢力によってコントロールされ始めている,しかしそれは角を矯めて牛を殺すことに繋がる道であり,文化停滞のプレリュードになってしまうぞというわけだ。<BR>
以前,アメリカの所謂「ミッキー・マウス保護法」によってその法律の建前上の趣旨と裏腹に,歴史の中に埋められてしまう文化についてコラムを書いたことがあるのだが,どんなイノベーションも先人の成果を土台にしなければありえないという事実と,情報が瞬時に世界を駆け回ることによるイノベーションの加速を考えあわせれば,土台とされる側に対する権益保護は短縮の方向に向かうのが自然であろうに,現実は逆の方向に進んでいるのだ。「訳者あとがき」で山形浩生氏も指摘しているように,テキが保護するならウチも負けずに,てな視点しか持たない「オピニオン・リーダー」のなんと多いことか。オレも暗胆たる気持ちになっちまった。<BR> |