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松山巌の仕事〈2〉手の孤独、手の力 (松山巖の仕事 2)
松山巌の仕事〈2〉手の孤独、手の力 (松山巖の仕事 2)
著者: 松山 巌
出版社: 中央公論新社
評価: ★★★★★
カテゴリ: 文芸評論 文化論
コメント:  どの文章をとってもながながと感想を書きたくなる本なのだが,なかでも室生犀星の「雀」という短い詩から筆を起こす「詩のなかの住まい,詩のそとの家」という一編が素晴らしい。この詩から,松山氏は今は亡き中上建次のことを思い出す。彼が生前,谷崎潤一郎の著明なエッセイ『陰翳礼讃』を評して「あれは負け惜しみだな」と言った,というのである。谷崎のこのエッセイは,日本の美の極地は陰翳の中にこそあるという主旨のモノだが,松山氏はかねてからこの論からアール・デコを連想していたので,中上の指摘に驚き感心した。<BR>  谷崎が陰翳に映えるものを良しとするのは,照明が進歩して明るくピカピカしたものが増えたからだ。そして松山氏は,アール・デコというデザインもまた,そのような感性の産物であるといい,これを日本の伝統的な美というのは退廃が過ぎるのではないか,と考える。また,彼の見るところ,中上建次の視点はまた違い,西欧文化が移入され家屋も明るくモダンになる中で闇や陰翳をことさら採り出して礼讃する態度に,時代の進歩について行けぬ老人谷崎の「負け惜しみ」を感じたのだろうという。<BR>  そして話は室生犀星に戻ってくる。ここには負け惜しみはない。退廃的な美もない。ここにこそ「日本の美」はあるのではないか,としめくくる。「雀」に続いて同じ詩集『日本美論』から,「隣史」,それに「傾く家」が引用されている。この「傾く家」には鳥肌が立つぞ。日本を紹介するガイドブックに載るようないわゆる「日本の美」を詩人は歌っていない。そういうものではなく,これを「日本の美」と捉えた犀星を私は日本人として誇らしく思う。<BR>
関連本棚:
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2001年映画の旅―ぼくが選んだ20世紀洋画・邦画ベスト200
2001年映画の旅―ぼくが選んだ20世紀洋画・邦画ベスト200
著者: 小林 信彦
出版社: 文藝春秋
評価: ★★★★
カテゴリ: 評論 映画
コメント:  うー,楽しい本である。まずなんといってもカヴァー絵がいい。これ,黒澤明監督の「野良犬」での三船敏郎と志村喬である。白いスーツにハンチング,という格好が馬鹿みたいでなかった時代のかっこいいミフネだ,あんた (と偉そうに書くがオレも劇場で観たわけではない,封切りの時は産まれてないしな) 。<BR>  この本は2部構成になっている。前半は小林さんの選ぶ20世紀の洋画,邦画のベスト100という企画読み物。後半はいろいろなところに断片的に書かれた映画に関わるエッセイを集めたものである。本文中にもあるが彼はある時期で映画評論を書くのを辞めており,ここに納められのは評論ではなくあくまで映画にまつわるエッセイである,らしい。そういう風に厳密な分け方をする小林さんがオレは好きだが全然真似しようとは思わない。世代の差かも知れぬ。<BR>  ともかく選ばれた洋画100本のウチ,オレが観ているのはたったの15本,邦画に至っては10本に満たない。まぁどっかの偉いさんが選んだ「ニッポンの百名山」とかいうのを踏破してナニかを成し遂げた気になる,という類いのメンタリティはさらさらないのでそう残念でもないのだが,小林さんの紹介文を読むと観たくなるなぁ。<BR>
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