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性的不能者裁判―男の性の知られざる歴史ドラマ
性的不能者裁判―男の性の知られざる歴史ドラマ
著者: ピエール ダルモン
出版社: 新評論
評価: ★★★★
カテゴリ: 歴史 社会 宗教
コメント:  カトリック教会によって離婚が罪とされていた中世から近世にかけてのヨーロッパで,唯一結婚の解消が認められたのが「夫あるいは妻が性的に不能で『結婚』を成就できない」場合だった。性的不能を理由とした離婚の訴えは,聖職者を判事とする公開の場で取り上げられ,現代の基準に照らせばまぎれもなくセクハラと言える尋問の果て,遂には「コングレ(性交実証)」と呼ばれる……なんてんですかね,ナマ板ホンバン? まで強制されていたのである。<BR>  この本は16〜17世紀フランスの「性的不能による婚姻無効訴訟」の記録を丹念にたどり,いかに倒錯した心性が神に仕える聖職者をしてこのような愚行に熱中せしめたのか,を追求した歴史学の論文である。結論を乱暴に要約すれば,肉体的には頑健正常(むろん性的にも,だ)でないとその資格を与えられないにも関わらず,女の肉体は悪魔の罠であると教えられ禁欲を強いられていた当時の聖職者にとってこの種の審判は「脳中に罪を犯す」絶好の機会だったというわけなんだが……。<BR>  そもそもカトリック教会が聖職者に妻帯を禁じたのは,相続によって教会財産が流出するのを恐れたからで,聖書に根拠があることではない(西暦306年の教会法で規定)。信者に婚姻外の性交渉を禁じたのも元を糺せば財産を巡る争いの元になるからだった。この2つの裏を返せば,貞潔の誓いというものは婚姻さえしなければ守られていることになるわけで,10〜14世紀,結婚しない聖職者はヤリタイ放題ヤっておったと(13世紀のある司教は産ませた私生児が65人を数えるまで何の罰も受けなかった)。<BR>  ……このなおざりにされていた禁欲が,16世紀頃になってにわかに(少なくとも表面上)守られるようになったのは別に突然真の信仰に目覚めたわけぢゃなくて,早い話新大陸からやってきた性病の蔓延のせいなんだよね。このへんの事情は以前読んだ「性病の世界史」に詳しかったんだが,こんな風に全く別に読んだ複数の本からの情報が頭の中で交錯して一個の絵を形作る快感というのは読書好きの醍醐味だね,うん。<BR>
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呪いの研究-拡張する意識と霊性
呪いの研究-拡張する意識と霊性
著者: 中村 雅彦
出版社: トランスビュー
評価: ★★★☆
カテゴリ: 心理学 民俗 宗教
コメント:  愛媛大学で社会心理学を教えている著者は,同時にちゃんと資格を取った神主(神職というのが正確らしいが)でもあり,主に「呪術的実践と神道的世界観の心理学的研究」というのを行っている……そうな。<BR>  映画「死国」にも出て来たが,四国には伝統的に市井のシャーマン「拝み屋」が多数在住し,占い,まじない,加持祈祷などを行っている。彼らの役割,社会的位置などを文化人類学の観点から構造主義的に分析した研究は多い。が,それらの研究の多くは,基本的に彼らの行為の真偽や効果についての言及は避けてきた。本書はそれらの研究とは逆に,呪術や託宣,霊視や念力などの効果を現実のものとして認め,それが機能する心理的世界の模式を提起しようと試みたものである。<BR>  多少牽強付会的な印象もあるが,ユング呼ぶところの「ヌミノーシティ(霊性体験)」を,多くの場合その励起要因となる宗教性から切り離し,逆に全ての宗教がこの「霊性」の顕現に他ならないとする論理展開は興味深く,世界観としても面白い。また,この現象(というかチカラというか)を悪用しての呪詛やオウムのような人心収攬の危険性についてもキチンと言及しており,所謂「トンデモ本」ではない……いやトンデモ本を楽しもうと思って読んでも十分楽しいけどね(笑)。<BR>
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