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悩み多きペニスの生涯と仕事
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著者: |
ボー コールサート |
出版社: |
草思社 |
評価: |
★★★★ |
カテゴリ: |
性
医学
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コメント: |
ずいぶん昔の話だが,梶原一騎・川崎のぼるの「巨人の星」コンビに「男の条件」というマイナーな漫画があって,その中で紙芝居描きの主人公が,縄張り荒らしの落し前をつけるため,ヤクザの親分 (というのがそういえば可愛らしい女子高校生なのだ,「セーラー服と機関銃」を先取りしてましたな) の弟を「紙芝居で感動させなければならない」ハメになるんである。<BR>
この弟というのが,である。なんつうか女子高生にして女親分を立派につとめる姉の弟のくせに,皮肉屋のガリ勉 (死語?) 野郎で,ハナから紙芝居など馬鹿にしている。まっとうな方法では「感動」させることは不可能だ。そこで主人公とその師匠 (だいたいこの主人公は漫画家になりたいわけでもなかったくせにこの師匠の男気に惚れて仕事をやめ,紙芝居屋をやってるんだが) は一計を案じ,この弟のコンプレックスをこれでもかこれでもかえぐり出すような内容にする。<BR>
これを観て弟は激高し,子分どもに主人公達を痛めつけるよう指示するが,組の重鎮である「人斬り政」(だったと思う) に「坊ちゃん,コンプレックスを突かれて怒るのも感動には違いありやせん」とか言われて,その場に泣き伏す…という,いかにも梶原的理屈っぽさ漂う展開 (「人斬り政」ってインテリぢゃん) になる,と。<BR>
やれやれ,長い前置きであったけれども,ボー・コールサート著「悩み多きペニスの生涯と仕事」を読み終え,私もこの「男の条件」のヤクザの坊ちゃん的「感動」をしたんである。文章によって感情を揺さぶられ,それどころかありもせぬ痛みまで感じてしまった。なんつうか,男なら誰でもそうだと思うのだが,例えば下の「陰茎折症」の描写なんかどんなに即物的に書かれていても平静な気持ちでは読めない,と思うのだ。</p>
<Blockquote>
ペニスの海綿体は堅い壁を持っている。これが激しい興奮のときには強度の緊張状態に置かれる。誤った動作をすると,海綿体が棒のように曲ったり折れたりすることだってあるのだ。こうなると,海綿体組織の壁が切れ,血液が高圧で組織の中に流れ込む。この出血が,猛々しく鋭敏な愛の絵筆 (「愛の絵筆」というのはこの本の原題でもある) をほんの短時間で変色させる。腫れあがり,無力で,痛いだけの器官に変えてしまうんだ。すぐに病院に受け入れてもらう必要があるね。
</Blockquote></p>
実はこの本を私は「題名買い」(題名だけ見て面白そうだ,と購入すること) したのだが, 松浦理英子の「親指Pの修業時代」みたいな小説かと思ったのだ。そしたら泌尿器科の専門医による,なんつうかペニスとセックスに関する医療相談みたいな本だった。で,上のような記述がバンバン出て来るのである。いやぁ,なんか股間が (性的興奮とは別の意味で) ムズムズして来ませんか。それはあなたも「感動」してるんですよ(笑)。 |
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ホワイト・ジャズ (文春文庫)
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著者: |
ジェイムズ エルロイ |
出版社: |
文藝春秋 |
評価: |
★★★ |
カテゴリ: |
アメリカ
小説
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コメント: |
600ページをこえる大冊。この本はエルロイの「暗黒のL.A.4部作」の最終章,1997年に公開されてアカデミ−賞の脚色賞,およびキム・ベイジンガーが助演女優賞を獲得した映画「L.A.コンフィデンシャル」(カーティス・ハンソン監督) に続く日々を描いた物語である。…つまり「L.A.コンフィデンシャル」は「暗黒のL.A.4部作」の第3作目だけを取り出して映画にしたもんなのね。<BR>
ヘビィな小説だ,馳星周絶賛,「暗黒小説」〜オレの定義では「登場人物の誰も好きになれない『どいつもこいつも小説』」の傑作である。前述の映画を観た人ならば,映画でガイ・ピアースが演じるエド・エクスリーと原作の印象の違いに驚くかもしれない。映画とはかなり展開も違っている (一応ネタバラシは避けておく) |
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未来のアトム
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著者: |
田近 伸和 |
出版社: |
アスキー |
評価: |
★★★ |
カテゴリ: |
脳科学
ロボット
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コメント: |
オビのアオリをそのまま書き写せば,「取材,執筆に丸2年! 早稲田大学,大阪大学,東京大学,経済産業省,ホンダ,ソニー,NEC……,日本のロボット開発の最新動向や現代科学の最新理論から『ヒューマノイド』の未来を探る,渾身のサイエンス・ノンフィクション!!」である。<BR>
著者の田近さんの意図としては,ヒューマノイド研究の最先端をまずルポし,それが「アトム」には遥かに遠いことを指摘。そも我々が思っているアトムのようなヒューマノイドを作るにはどのようなことがまだ明らかでないのか,そのためにどのような研究がなされているのかを紹介していく,ちょうどホーガンの「科学の終焉」みたいなテイストを目指したのだと思うのだ。<BR>
だけどなんつうのかな。ホーガンが取材対象である学者達を挑発したり怒らせたり,サイエンス・ライターとしてのある種の矜持が感じられる取材に読めるのに対し,田近さんの取材はもっと「お説拝聴」みたいな印象があって,自分を出さない匿名子の構成したインタビューみたいなんである。いや,それだけならそういう本として納得が行くんだけど ,その取材結果をまとめる段になると,ホーガンも田近さんも容赦なく「●●氏のこの見解,ワタシには納得いかない」とか書いちゃうわけ。<BR>
オレもヒトにインタビューしてそれをまとめるとか,対談をしてもらって読める記事にするとかって仕事をしたことがあって,その経験から感じるんだけど,おそらくホーガンに取材された学者よりも田近さんに取材されたヒトの方が出来た本を愉快には思わないんぢゃなかろうか。ま,本スジには関係ないところなんだけど。<BR>
前半,AI (人工知能) に関わる話はオレもかつてカジったモノなので「知ってる話」が多く,まぁ流し読みもできたんだが,後半,脳科学や物心論あたりになってくると読んでても付箋を貼りどおしである。青山拓央「タイムトラベルの哲学」やラマチャンドラン「脳のなかの幽霊」,そして上にも書いたホーガンの著作など,ここ数年のあいだに読んだ本の復習をさせられているような知的体験でありました。でもちょっとこの結論は食いたりないなぁ,オレ。<BR> |
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理系白書
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著者: |
毎日新聞科学環境部 |
出版社: |
講談社 |
評価: |
★★ |
カテゴリ: |
ドキュメント
社会
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コメント: |
毎日新聞科学環境部編。オビにはこうある。"文系の王国"日本で全く顧みられることのなかった「理系」の問題に初めて深く切り込んだ渾身のレポート……。それほどのもんか?<BR>
ウチは毎日新聞を購読しているので,一年を越えたこの連載記事もずっと読んでいた。その印象は,最初の頃こそ広く「理系」の問題に目を向けていたが,いつの間にか「理系」イコール「研究者」のことになってしまい,世にある「理系」のヒトビト全般の問題意識からかけ離れて行った,というものだった。……今回こうして一冊にまとめられたものを読んでその印象がかなり正確であったことに残念ながら失望した。<BR>
だいたい「研究者」の待遇に限れば理系よりも文系の方が過酷だと思う。理系の「設備」はそれでもカタチがある分予算が付き易い(モノが高価だから十分でないのは同じだが)。オレの出た大学でエジプト史を研究してたセンセ(例の吉村作治さんほどタレント性はなかった)はよく,国から出る研究費では現地に行くどころか文献蒐集もままならないとぼやいていた。首尾よく博士になれても専門を活かせる就職なんか……それこそ理系の研究者がうらやましくなるくらいに「ない」だろう。<BR>
つまり文理の別と研究者・非研究者の別がごっちゃになっているのだ。なんというか,オレも技術者のハシクレとして働くニンゲンなんだが,世界を変える研究をしているわけではないし今後もその見込みは無い。だが世間的には「理系」の仕事をしているヒトであり,理系的ネガティブイメージで語られる。そういう市井の「理系のヒト」が読んでると,この本に出て来るヒト達はとても縁遠い存在だという気がするのである。<BR>
……こう言えば分かるだろうか。これを作った毎日新聞の記者諸君にお聞きしたい。もし「文系白書」という本が出版されて,開くと大臣にもなるような花形経済学者の話とかマーケティング理論の専門家の話や,源氏物語の文献研究をしている研究者の予算不足についての愚痴や道祖神の分布を調べている女性民族学者が教授にセクハラに遭った話(こんなのこそ文理共通だろ)ばかりが書いてあり,オビには「文系のすべてを浮き彫りにする」とか書かれている。……どんな気がする |
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アメリカ新上流階級 ボボズ―ニューリッチたちの優雅な生き方
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著者: |
デイビッド ブルックス |
出版社: |
光文社 |
評価: |
☆ |
カテゴリ: |
アメリカ
文化
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コメント: |
一言,もの凄く不愉快な本。途中で何度も読むのをやめて放り投げようかと思ったが,読み終えてウェブとかに悪口を書きたい書いてやる口を極めて罵ってやるというその一心で我慢して読んだ。<BR>
「ボボズ」とは著者によれば「Bourgeois Bohemians」の略,簡単に言えば高学歴かつ高収入のアメリカの知的エリートたちのこと。著者のブルックスは自らをその一人として,前世紀(と書くと恐竜が出てきそうな気がするがオレの産まれた20世紀のことだ)前半,アメリカ社会の支配層であったブルジョアの価値観と60年代,それに異議を唱えたカウンター・カルチャー系のボヘミアン文化を融合して新たな時代の担い手となる人々であると位置づける。<BR>
オレのようにひねた読者でなければ(例えばこの本の翻訳者であるセビル楓さんのようなヒトであれば),気取らず親切で洗練された彼等の生き方に共感したり憧れたりできるだろう。酒よりコーヒー,美食より健康,ヤッピーの俗物性を嫌い,サバティカルを取ってボランティア活動に精を出す……。が,こう言っちゃなんだがそれらはマリー・アントワネットの洗練であり白木葉子の慈善ではないのか。<BR>
世界の5%にも満たない人口で世界の半分のエネルギーを消費するアメリカという国で,その政策(今この国でタケナカが真似しようとしている政策だが)ゆえに拡大した貧富の差の上澄みの部分にいるニューリッチどもが,週末に郊外のラテ・タウン(彼等が住む街をこう呼ぶのだ,バーよりコーヒーハウスが多いから)のカフェで熱帯雨林の大切さについて静かな口調で語り合って,ボクらは自然を大切にしている偉いでしょ,というのである。京都議定書の批准を拒否するジョージ・W・ブッシュを「ボボズ」代表として支持しながらだ,バカぢゃなければ偽善だろ? これ。<BR>
本書がアメリカで上梓されたのは2000年,つまりあの9.11以前なわけだが,この翻訳なった2002年の段階で訳者のセビル楓さん,解説を書いておられる明治大学の越智道雄センセともに,この本に書かれた彼等が9.11に続くアメリカのアフガン攻撃やユニラテラリズムへの世界からの批判についてどう考えているのかに言及していない。彼等の中でもグレードが高いのは外交政策に関わる仕事と書いてあるにも関わらずだ。てめぇらナルシストのためにアフガンやイラクで子供が死ぬんだよかったな,け,と燃え尽きた矢吹丈に代ってワタシが言わせていただきたい。 |
関連本棚: |
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トンデモ科学の見破りかた -もしかしたら本当かもしれない9つの奇説
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著者: |
ロバート・アーリック |
出版社: |
草思社 |
評価: |
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カテゴリ: |
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コメント: |
いやこれは面白かった。え,また霊感商法なんかのトンデモ話をバカにする類いの本かって? そーぢゃない。そーゆーのは「トンデモ話」かも知れないが「トンデモ
科学」とは言えません。この本で取り上げられている諸説は,そーゆー「ヒトを騙してツボを売りつけよう」みたいな市井の詐欺師ではなくて,一応ちゃんとした学者
が大真面目に論文とかを書いているシロモノなのよ。<BR>
俎上に載せられた諸説は以下の9つ。「銃を普及させれば犯罪率は低下する」「エイズの原因はHIVぢゃない」「紫外線はからだにいいことの方が多い」「放射線も微
量なら浴びた方がいい」「太陽系には遠くにもう1つ太陽がある」「石油や天然ガスは生物起源ではない」「未来へも過去へも時間旅行は可能」「光より速い粒子『タキ
オン』は存在する」「『宇宙の始まりはビッグバン』つうのは嘘」……。<BR>
物理学者でもある著者はこれら一つ一つについてまずは丁寧に解説し,問題点を挙げ,検証方法を検討し,最後に「私見」としての「トンデモ度」を判定する。SFや
科学に全く縁のないヒトには辛い部分もあるかも知れないが,キチンと読み通せば目からウロコの2枚や3枚チャリンチャリンと落ちること必定の良書である。ちなみに
上の9つのウチ,著者がトンデモ度ゼロ(本当であってもおかしくはない)と判定したのは3つ,どれがそうかは読んでのお楽しみ。 |
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ナンシー関大全
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著者: |
ナンシー 関 |
出版社: |
文藝春秋 |
評価: |
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カテゴリ: |
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コメント: |
「噂の真相」や「週刊文春」のコラムは好きでよく読んでいたが,こうしてまとめて読むのは初めて。それがいわば絶筆というか追悼編集モノなのはなんと惜しいことか。このヒトのコラムのいいのは視点・視座がぶれないこと。こういう風に言うと誤解があるかもしれないが,妙な上昇志向がないので,対象との距離感が(それが自分であっても)貫徹されているのだな,オレの大嫌いな林真理子と対極にある感じ。<BR>
TVと芸能界ネタは畑違いなので,書かれている対象のヒトを全然知らなかったりする場合もあるのだが,櫻井よしこの武器は「お上品爆弾」であると喝破し,返す刀でマスコミは皇室ネタに国民的「快楽のツボ」を見いだしたと分析する透徹はちょっと図抜けてる。いや,あらためて惜しいヒトを亡くしたもんである。彼女に比べたら死んでくれて惜しくない評論家なぞ掃いて捨てるほど生きてやがるもんなぁ(笑)。 |
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のらねこ兵☆2
可楽まんだら草紙
楽しく生きるための100冊 2019
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睡魔
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著者: |
梁 石日 |
出版社: |
幻冬舎 |
評価: |
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カテゴリ: |
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コメント: |
映画「月はどっちにでている」の原作者,梁石日(ヤン・ソギル)のマルチ商法小説。主人公の趙奉三は大阪で事業に失敗,東京に逃げて来てタクシーの運転手をし
ていたが,交通事故で続けられなくなり失業。自分の体験を元に小説を出版するも思うようには売れず,悪友の誘いに乗って健康マットのマルチ商法に突っ込んで行く
。 <BR>
この健康マットのセールス・トークには大笑いする。いわく,大気中にはニンゲンの健康にいい「磁気」が一定量ある。これがなければ生物は生きていけない。なぜ
かというと赤血球にはプラスとマイナスがあり,互いに反発することで血液の流れが促進されているからである。ところが現代人は磁気を発している土をアスファルト
で覆ってしまい,この磁気を吸収できない。この健康マットは表面の突起の下に強力な磁石を多数縫い込んであって不足しがちな磁気を補給できるスグレものである…
…あんた,アスファルトやコンクリートで磁気が遮られるなら,例えばオレの部屋でコンパスが北を指すのは何故ですか (笑) 。しかし,このマルチの会社「ジャパン
・エース」(もちろん架空の会社である) が二泊三日で行う研修会に参加したみなさんは欲と二人連れだ,この説明をすんなりと受け入れてしまうのである。実際,ああ
ニンゲンというのはこのように洗脳されてしまうのか,うぬぬ,この雰囲気の中に叩き込まれたらオレも危ないかもなと思うくらい,この研修会のシーンはスゴい。小
説としても面白いが,今後の人生こういうモンに騙されないための参考書としても有用な一冊と言えよう,新社会人とかのヒトに是非ともオススメしたいっす。 |
関連本棚: |
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タイムトラベルの哲学―「なぜ今だけが存在するのか」「過去の自分を殺せるか」 (講談社SOPHIA BOOKS)
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著者: |
青山 拓央 |
出版社: |
講談社 |
評価: |
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カテゴリ: |
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コメント: |
SFに出て来るタイムトラベルの分析 (その実現可能性の分析ではない) から,なんとい
うか時間論を哲学するココロミ……というべきなんだろうか。面白くは読んだが説得はさ
れなかった,という読後感である。<BR>
具体的に行こう。まずは4章「タイムトラベルと2つの今」の中での「私の今」と「動く
今」に関する考察が,オレにはなんかヘンな感じがした。一切の実証が不可能でありなが
ら「動く今」のイメージが有効に働くのはそれが「決して他人と共有され得ない『私の今
』」の「生活の為に必要な方便的サブセット」だからぢゃないのかな。青山クンの言葉を
借りれば「動く今」と呼んでいる方の今こそが「私の今」の手下なんだ,というのがオレ
の「感じ」なんだけどな。<BR>
もひとつ,こっちは別に違和感ではないんだけど,9章「タイムトラベルと同一性」の
議論の中で,ニュートン力学から相対論への飛躍を論じた部分「時間概念の構成に用いる
無根拠な同一性の選択」という言葉はちと分かりにくかった。ニュートン力学から相対論
への「移行」(飛躍かなぁ) は,ヘンな言い方をすれば「限定解除」なんだよね。ニュー
トンにはどのような同一性の選択肢もなかった,アインシュタインはその選択肢を得て,
その中で最も遠くまで (この「遠く」は時間的にも空間的にも,というか時間と空間の区
別がなくなるところまで,なんだけど) 有効でありそうな選択をした,のだと思うのね。
<BR>
こっからは本を読みながらずっとオレの頭が「哲学してた」部分なんだけど,子供のこ
ろ,時間について最初に考えたのはアキレスと亀みたいなことだったんだよ。オレは母親
の実家である寺で幼児期を過ごしたんだけど,メシの前に毎朝お経をあげなきゃいけない
のね。で,冬の寒い日とかに口のなかでモゴモゴ言ってた時,ふと,「……ということを
ボクは今考えてるんだ……ということをボクは今考えてるんだ……ということを」って考
えた。びっくりした。言葉は同じだけど,これを一度思う度にその中身は違う,その「今
」も違う。それは単なる経過のようでいて認知が絶え間なくメタになっていく過程なんだ
よね (もちろんそんな気の利いた言葉は知らなかったが) 。<BR>
人間の生存ちうのをこの意味で認知のインフレーションであり,同時にエントロピーの
消費だと考えれば,熱力学の法則をメタファーとして使って,そも命というのは「時間に
関しての位置エネルギーみたいなもの」と考えられそうデハナイデスカ,なんて。……ひ
さびさに知恵熱出そうであります(笑)。 |
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ハッカーと蟻
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著者: |
ルーディ ラッカー |
出版社: |
早川書房 |
評価: |
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カテゴリ: |
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コメント: |
ハッカー作家,ルーディ・ラッカーの1994年の作品 (翻訳が出たのは96年)。一昨年までアップルのWWDC (World Wide Developer's Conference) の開催場所だったサンノゼのダウンタウンが舞台だったりして (主人公が盗聴を恐れて「サンノゼのフェアモント・ホテルの前にあるうるさい噴水のそば」でわざわざ会話をしたりする) 楽しい。<BR>
いや実際,同じ作者のこれまでの作品に比べて,時代,技術水準その他が現実に近いものに設定されているせいで,特にこの業界に身を置くワタシとしては実に身近な (身につまされる部分も含めて,ね) リアリティのある作品である。以下おおまかなあらスジ。<BR>
シリコン・バレーの最先端企業で家庭用ロボットのソフトウエアを開発している主人公ジャージーは,ある日サイバースペースで一匹の「蟻」を目撃する。会社のスター・プログラマー,ロジャー・クーリッジが開発していた人口生命体だ……。「蟻」はやがて増殖し,まるでウィルスのようにサイバースペースを侵食しはじめる。「蟻」をネットワークに放った犯人として告発されたジャージーは会社も解雇され孤立無援に……。<BR>
とまぁ,スジとしてはなんつか「ハイテク企業陰謀モノ」みたいな感じなのだが,そっちの謎解きは例によって本質ではない。物語のキモは遺伝的アルゴリズム (ああ懐かしい,「バラ」を作った時勉強したぜ) によって淘汰されたロボットの「知性」が「繁殖」する可能性を探ることにあり,またそのような「知性の爆発」にはほぼ無限といっていいサイバースペースを舞台に変異と淘汰が実践されなければならない可能性を示唆している部分にあるのだ。…わかりにくいですか? 読むとわかります(笑) 。<BR>
このヒトが好きなのは,実際自分でもソフトウエアを書くエンジニアでもあるところ (だけでなく「数学者」でもあり,なにより「ガイキチ」だったりするんだが) 。以下のような部分,プログラマーでなければ書けない感覚だと思うんだよね。<BR>
<BLOCKQUOTE>
新しい言語や新しいマシンを相手にする時はいつもそうだが,だれかが,「ほらよ,ジャージー,こいつが部品番号のリストで,こいつがその部品を使って組み立てられる自動車の写真だ」といい,最初のうちは,「くそくらえ,いままで使ってた古い部品で車を組み立てるやりかたならちゃんとわかっているんだ」と思うのだが,やがて好奇心が首をもたげて,新しい部品を使いはじめる。新しい部品は妙な形をしているが−なじみのない論理にもとづいてつくられているから,最初のうちは納得できない−やがてなんとか車輪を一個作ることに成功し,それがちゃんと転がると,もっと興味が湧いてきて,その新しい論理を使ってどんなクールなことができるのか理解しはじめ,そのころにはもう頭の切り替えがすんでいる。こういうことに意欲を燃やし,それを自分で何度も遂行できるという事実が,ぼくをハッカーたらしめているのだといってもいい。</BLOCKQUOTE>
おっと為念,この本では「ハッカー」は「出来のいいプログラマー」,「ハッキング」は「クールなプログラミング作業」という意味で使われている。つまりシステム破りを意味する「クラック」とははっきり分けているので注意してほしい (同じことを「クリプ」と言ったりしてるけどね) 。一応,書いておかないと……。今のニッポンぢゃ主人公と同じ誤解を受けるかも,だからね。<BR> |
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十二支考〈上〉 (岩波文庫)
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著者: |
南方 熊楠 |
出版社: |
岩波書店 |
評価: |
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カテゴリ: |
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コメント: |
明治が産んだ日本の大学者,南方熊楠の名著。大正3年から12年にかけて雑誌「太陽」に連載した「虎に関する史話と伝説,民俗」から「猪に関する民俗と伝説」までの十編に,後にまとめられた「鼠に関する民俗と信念」を加えて昭和26年にようやく刊行された(牛の稿はついに書かれなかった)もの。博覧にして強記,傍若にして無人なる熊楠先生のおそらく,現在でも手軽に入手可能な唯一の業績(リンクは岩波文庫版だが,私が持っているのは東洋文庫版全三巻です)。 <BR>
以下,知らないヒトのために熊楠について記す。 <BR>
慶応3年(1867年),和歌山に生まれる。幼児より天才的記憶力を示し,中学卒業後上京,しかし大学には行かず明治19年渡米,ミシガン州立農学校に学ぶも,やがて粘菌類の独学研究のためここを中退して中南米,西インド諸島を放浪する。明治25年ロンドンに渡って大英博物館嘱託研究員となり「ネーチュア」などに数々の論文を発表。明治33年帰国,和歌山県田辺町に居を構える。生物学,博物学,民俗学,天文学,考古学など,精力的に研究論考を行う一方,森林の乱伐に異を唱えて投獄されるなど,奇行でもその名をとどろかす。一生涯在野の学者として昭和16年没(参考:神坂次郎「縛られた巨人」)。 |
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人はなぜ学歴にこだわるのか。
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著者: |
小田嶋 隆 |
出版社: |
メディアワークス |
評価: |
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カテゴリ: |
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コメント: |
著者の小田嶋さんは私とちょうど5歳離れている。そのせいかどうか,私は自分の友人達の最終学歴なんか逐一把握しておらず,それで落ち着かない気分になったこともなかった。ついでに言えばワタシはヨワイ40にして結婚もしておらず,子供もいないのでその進学だの教育だのにかまけることもない。だからそのヘンには共感しようにもデキない。んだがいやしかし,他の話はいちいち頷けるもんがあったね。そう,学歴って確かに小田嶋さんが言うような存在だよね,確かに。<BR>
ヘンな言い方なんだが,絶対にこのヒトはこの本を読まないだろうな,と思われるヒトにこそ読んでもらいたい,そんな本である。あ,そだそだ,あとワセダを出たマスコミ関係者はこれをちゃんと読んで,彼が「なんでマスコミが騒がないのか」と疑問に思っているコトについてなんか答えを出して欲しい。お前らがそういうことのためにマスコミにいるわけぢゃないのは分かってるけど,たまには「誠意」というものを世間に示すことも必要だよ。 |
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