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アコーディオンの罪 (ACCORDION CRIMES)
アコーディオンの罪 (ACCORDION CRIMES)
著者: E・アニー・プルー
出版社: 集英社
評価: ★★★★
カテゴリ: アメリカ 小説
コメント:  時間はかかったけどこの本を読むのは愉しかった。なんてのかな,「ストーリーを追うヨロコビ」ではなくて,もっと純粋な「文章を読むヨロコビ」を感じさせてくれる本,映画よりも音楽に近いタイプの本である。たまにはこういう本を読むのもいい。仕事で切れ切れではなくてまとまった休暇とかを取っていっぺんに読めると最高なんだがな。<BR>  ストーリーを紹介するのは難しい。簡単に言えば,約100年前,イタリア移民のアコーディオン職人が持っていた「小さな緑色のボタン式アコーディオン」が,約100年後にミネソタからミシシッピへ向かうハイウエイ沿いで破壊され,その場にいた貧しい人たちにちょっとした人生の転機をもたらすまでの,なんつうか「アコーディオン・オデッセイ」である。もちろんアコーディオンに手足が生えて……なんて文福茶釜みたいな話ではないので,次々と替わるその持ち主たちがその場その場での「主人公」になる。<BR>  モノが楽器なので当然ながら音楽がからむ。イタリア系に始まってドイツ系,メキシコ系,フランス系,アフリカ系,ポーランド系,アイルランド系,ノルウエー系と移民達の手を渡り歩きながらそれぞれの音楽を奏でたり奏でてもらえなかったりする。…そだな,1999年だったか,「ラン・ローラ・ラン」ってドイツの映画があったではないか。あの中で主人公のローラとすれ違う人々のその後の人生がラッシュで垣間見られるところがあったでしょ。この本はあのローラのポジションにアコーディオンを置いた,ある意味アメリカの年代記とでも呼ぶべきもんなのだ。誰にでも薦められるわけぢゃないが,オレは面白く読みました。
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ダーウィンの使者〈上〉 (ヴィレッジブックス)
ダーウィンの使者〈上〉 (ヴィレッジブックス)
著者: グレッグ ベア
出版社: ソニーマガジンズ
評価: ★★★★
カテゴリ: アメリカ 小説 SF
コメント:  なんつうのかね,昔はハードSFって言ったら物理学の世界だったのだが,昨今のハードSFは生物学なんだな。オレもそれなりに例えばスティーブン・ジェイ・グールドの本とかを読んだり,ディスカバリー・チャンネルを観たりしてその方面に関して世間の平均以上の知識を持っているツモリだったのだが,「ヒト・ゲノムに数十万年前から潜んでいたレトロウィルスが現代社会のストレスを引き金に活性化して非連続的進化を引き起こすその方法」の解説なんてのは読んでてもさっぱり判らないよ(笑)。<BR>  しかしそれなりに面白く,特に後半,主人公の女性生物学者が自らミュータントを妊娠することを決心してからのダッシュな展開はマイケル・クライトンばりに読ませる。…ま,こういう言い方をするということはつまり前半は結構タイクツなトコもあったということなんだがね。事実を記録したドキュメンタリではなく小説なんだから,フォーカスを絞ることも必要だろう。はっきり言えば前半には無用な,物語的にいなくても大差ないくせに名前を与えられてる登場人物が多い気がする。それからラストで出て来るミュータントの幼児の容貌の描写がイマイチ像を結ばないのもマイナス要因である。顔に「まだら」があっても,文字で「可愛い」って書いてあればああ可愛いのだな,と読んでるヤツは納得するだろうが,それぢゃきっと映画化の話は来ないよ。ペイントの剥げかけたグレート・ムタは可愛くない。
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二度生きたランベルト
二度生きたランベルト
著者: ジャンニ ロダーリ
出版社: 平凡社
評価: ★★★★
カテゴリ: 寓話
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吸血コウモリは恩を忘れない―動物の協力行動から人が学べること
吸血コウモリは恩を忘れない―動物の協力行動から人が学べること
著者: リー ドガトキン
出版社: 草思社
評価: ★★★★
カテゴリ:
コメント:  くだけた邦題(まぁ原題も「Cheating Monkeys and Citizen Bees」でカタイわけぢゃないが)ながらなかなかタメになる進化生物学の解説書である。動物の協力行動というのは,例えば邦題になっている吸血コウモリの,飢えた仲間に自分の吸って来た血を吐き出して与える行動のこと。<BR>  もちろん動物たちが「良心」にしたがってそんなことをしているわけはないので,つまり現実にそうした行動が観察できるということは,そうした行動をとることが今までの自然淘汰の過程でその動物に有利に働いた結果であるといえる。では彼らはどんなメカニズムにしたがってそうした,個体にとっては「損」にみえるような行動を取るのだろうか……てな話を豊富な実例を挙げながら展開するわけだ。<BR>  なかでも興味深かったのは群内淘汰と群間淘汰の関係。小川に住むグッピーは一定規模の群れを作って行動する。捕食者らしい生物の気配を感じると,物陰に逃れる他の仲間から離れて敵の方に向かい敵を「偵察」し,得た情報を仲間に「報告」する数匹の個体がいるという。もちろんこの行為は偵察する本人(本魚?)にとって大変危険なものであり,群れの他のメンバーに比べて彼の生き延びられる確率は少ない(群内淘汰)。ではそんな行動を取る個体が一匹もいない群れの方が生き延びる確率が高いか? ちょっと考えればわかるがそんなことはない。そういう群れはあっという間に捕食者に喰い尽くされてしまうのである(群間淘汰)。ね,面白いでしょ?<BR>  例えばここに「ビジネス」というものがある。金儲け至上主義のヒトに言わせればこの世は弱肉強食である,と。つまりこれは協力行動を拒否,あるいはズルして群内淘汰における有利を得ればいいという考え方である。しかし国内にそういう考え方が蔓延し貧富の差が激しくなると国力が衰える。なので,群内協力がちゃんと出来ている(ように見えるだけだったが)共産主義陣営健在なりし頃はアメリカン・キャピタリズムもそう無茶はしなかった。が,冷戦終結グローバル化で今や地球全体が「群内」になったので,ヒトを協力行動に追い立てる圧力が雲散しようとしてるわけだ。……別に敵対する他の群がなくても淘汰される可能性はあるんだが,分かんないヒトが多いんだよな。
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心の仕組み~人間関係にどう関わるか〈上〉 (NHKブックス)
心の仕組み~人間関係にどう関わるか〈上〉 (NHKブックス)
著者: スティーブン・ピンカー
出版社: NHK出版
評価: ★★★★
カテゴリ: 進化心理学
コメント: Very nice site!
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銃・病原菌・鉄〈上巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎
銃・病原菌・鉄〈上巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎
著者: ジャレド ダイアモンド
出版社: 草思社
評価: ★★★★
カテゴリ: 歴史 人類 文化
コメント:  テーマは気宇壮大である。例えば中国では紀元前の昔からヒトが農業を営み家畜を飼い文字を使っていた。ニューギニアの奥地には今現在に至るまで鉄を知らず新石器時代そのままの暮らしをしているヒトがいる。同じ人類でありながら,この差はなにに由来するのだろうか? この世界は現状,15世紀から16世紀に掛けて新大陸を「発見」し,「征服」したヨーロッパ起源の人々の手に牛耳られている。なぜ逆にならなかったのか? なぜアメリカ先住民が海を渡ってヨーロッパを「発見」し,「征服」することはなかったのか? この人類史における「謎」を科学の視点で解明しようというものだ。<BR>  おそらくは「論文」ではなくて「科学エッセイ」(確かジェイ・グールド博士などが自分の一般向け著作をこの名で呼んでいたと思う) に分類されるものなのだろうが,最新の研究データを分かりやすく紹介し,現在地球上に陸地としてある5大陸それぞれの環境と,その環境下で1万数千年を過ごした人類の「発展」について解きあかしていく展開は圧巻である。<BR>  中でもメウロコ (オレだけ?) だったのは,ヨーロッパ人の新大陸征服にあたって先住民の命を奪った最も苛烈な武器は,当のヨーロッパ人さえ意識せずに持ち込んだ,新大陸にはない病原菌だった,という部分。ユーラシアを起源とする集団感染症の病原菌の多くが群居性の動物を家畜化したことを契機に変異したものであり,家畜といっても大陸全体 (南北アメリカ全体で,だ) に共通するのは犬くらいだった場所には「存在しない」ものだったのだ,そうかそうだったのか。<BR>  もひとつ個人的には,西洋に先駆けて羅針盤など外洋航海術を開発し,15世紀のあたま頃には実際にアフリカ東海岸にまで到達していた中国人たちが,なぜ来る大航海時代の主役にならなかったのか,という考察が興味深かった。ヨーロッパに比べ中国は紀元前200年の段階で既にあの広大な面積を統一した「帝国」だった。それは同時期のヨーロッパにくらべれば正しく「先進」であったが,それゆえに取り残されることになった,この歴史の皮肉!。
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ビター・メモリー (Hayakawa novels)
ビター・メモリー (Hayakawa novels)
著者: サラ パレツキー
出版社: 早川書房
評価: ★★★★
カテゴリ: アメリカ 小説
コメント: 第1作の「サマータイム・ブルース」に登場以来ずっと彼女の「頼りがいのある姉」みたいな立場だった医師,ロティ・ハーシャルの過去を巡る物語である。原題は「 Total Recall」,同名の映画のイメージがあるのでそのままの邦題にしなかったんだと思うが,映画の方の原作はP.K.ディックの「追憶売ります」でその原題は「We ca n remember it for you wholesale」なんだからややこしいよな。<BR>  閑話休題,恋人モレルがアフガニスタンに取材に行くことで憂鬱なV.Iは,黒人労働者サマーズからの依頼で彼の叔父にかかっていた筈の保険金詐欺事件を調べ始める 。同じ頃シカゴでは今も残るホロコースト被害についての会議が開催され,そこで「ナチスの生き残りによって虐待を受けながら育ち,最近催眠療法によって自分が実 はユダヤ人であることを思い出した」と称する男がスピーチを行う。ラドブーカと名乗るその男の名を聞いてロティは失神,わけを問い質すV.Iに彼女はかたく心を閉ざ してしまう……。<BR>  ホロコーストとユダヤ人という重いテーマを真正面から描き切った力量はさすがだし,ミステリとしても謎解きもこれでいいんだろうが,1本の小説としてはバランス に不満が残る。未解決の謎,というか「それであいつはどうなったの?」という当然語られるべきエピローグが欠落している印象。なんつうか,すっと追いかけている シリーズだけに,そういう細部までを描くことによる物語の厚みを大切にして欲しいと思う。<BR>  それにしてもなるほど,「故人が生命保険に入っていたことを遺族が知らないという理由で,保険会社が支払わずに済んでいる金」というのはきっと想像以上に巨額 なんだろうな。言ってみりゃ使われないテレフォンカードみたいなもんだもんなぁ。オレもちゃんと親に聞いておかなければ。
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闘蟋―中国のコオロギ文化 (あじあブックス)
闘蟋―中国のコオロギ文化 (あじあブックス)
著者: 瀬川 千秋
出版社: 大修館書店
評価: ★★★★
カテゴリ: 道楽 文化 中国
コメント:  日本にもある闘鶏や闘犬さながらにオスのコオロギを闘わせる,そういう遊びが中国にあるというのはなんかで読んで知っていた。が,これほど深いもんとは思わなかった。深いだけでなく歴史も古い。唐代玄宗皇帝のころというから8世紀の初頭には既にコオロギを闘わせる遊びが流行し,都の金持ち達はこれに莫大な金を賭けていたらしい。うーん,唐ですか。<BR>  と,オレだけ勝手に感心していても始まらないのでまずは競技のあらましを紹介しよう。例えば10人,虫主(虫の飼い主のこと)が集まって闘蟋を開催するとすると,皆それぞれ10個あまりの素焼きの壷(養盆という)を持って現れる。1つの養盆に1匹のコオロギが入っており,内部の調度は鈴房(ベッド)に水皿に飯板,ほとんど後楽園ホールのボクサーの控え室という風情である。<BR>  試合に先立って厳密な体重測定が行われるのもボクシングと同じだ。闘蟋は基本的に体重の同じムシ同士で闘われる。自分の戦士の計量が終わった虫主たちは,彼等(思わず擬人化する)の戦意を高めるため,それぞれ自分が効果ありと信じる「最終調整」を行う。ある者はコオロギを熱気から護るために養盆ごと廊下に持ち出し,ある者は養盆にメスを入れて交尾をさせる,虫を手のひらに入れて振る者,養盆の蓋をわずかに持ち上げて息を吹き込む者いろいろだ。<BR>  やがて試合が始まる。闘盆と呼ばれる浅手の鉢(最近は観やすいようにアクリルの透明なものが主流なんだそうだ)の中央に仕切りが置かれ,それを挟んだ両側に戦士が1匹ずつ放される。茜草と呼ばれる細筆のような道具の先で彼等をつついて挑発し(これはつまり相手の触覚が体に触れたと思わせてコオロギの縄張り意識を刺激するわけだ),双方牙を剥いたところで仕切りを取り外す……。<BR>  とにかく全ての局面においてノウハウ,ウンチク限りのない趣味である。やれ養盆を焼く土はドコに限るとか,晩秋には水皿をそれまでの5mmほどの深さのものから3mmのものに変えないといけないだとか,茜草には生きているネズミのヒゲを引っこ抜いて使うべきだいやオヒシバ(イネ科の1年草)の茎の繊維にエノコログサの細い茎を芯として挿し入れそれを蒸したあとで日に干してハエの頭の血を少しつけたものこそ霊験あらたかだとか,どんなメスがヤマノウチカズトヨの妻となって内助の功を発揮するかだとかどんなメスが強力無双の戦士をスポイルしてしまうかだとか,これでもかこれでもかと中国人は際限なく探求記録しちゃう。とにかくひとたびこれを読めば,コオロギを飼ってみたくてウズウスすること必定である。お金があって戦争が終わって例の肺炎騒ぎがおさまれば今年の秋には上海の虫市に行きたい!
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性的不能者裁判―男の性の知られざる歴史ドラマ
性的不能者裁判―男の性の知られざる歴史ドラマ
著者: ピエール ダルモン
出版社: 新評論
評価: ★★★★
カテゴリ: 歴史 社会 宗教
コメント:  カトリック教会によって離婚が罪とされていた中世から近世にかけてのヨーロッパで,唯一結婚の解消が認められたのが「夫あるいは妻が性的に不能で『結婚』を成就できない」場合だった。性的不能を理由とした離婚の訴えは,聖職者を判事とする公開の場で取り上げられ,現代の基準に照らせばまぎれもなくセクハラと言える尋問の果て,遂には「コングレ(性交実証)」と呼ばれる……なんてんですかね,ナマ板ホンバン? まで強制されていたのである。<BR>  この本は16〜17世紀フランスの「性的不能による婚姻無効訴訟」の記録を丹念にたどり,いかに倒錯した心性が神に仕える聖職者をしてこのような愚行に熱中せしめたのか,を追求した歴史学の論文である。結論を乱暴に要約すれば,肉体的には頑健正常(むろん性的にも,だ)でないとその資格を与えられないにも関わらず,女の肉体は悪魔の罠であると教えられ禁欲を強いられていた当時の聖職者にとってこの種の審判は「脳中に罪を犯す」絶好の機会だったというわけなんだが……。<BR>  そもそもカトリック教会が聖職者に妻帯を禁じたのは,相続によって教会財産が流出するのを恐れたからで,聖書に根拠があることではない(西暦306年の教会法で規定)。信者に婚姻外の性交渉を禁じたのも元を糺せば財産を巡る争いの元になるからだった。この2つの裏を返せば,貞潔の誓いというものは婚姻さえしなければ守られていることになるわけで,10〜14世紀,結婚しない聖職者はヤリタイ放題ヤっておったと(13世紀のある司教は産ませた私生児が65人を数えるまで何の罰も受けなかった)。<BR>  ……このなおざりにされていた禁欲が,16世紀頃になってにわかに(少なくとも表面上)守られるようになったのは別に突然真の信仰に目覚めたわけぢゃなくて,早い話新大陸からやってきた性病の蔓延のせいなんだよね。このへんの事情は以前読んだ「性病の世界史」に詳しかったんだが,こんな風に全く別に読んだ複数の本からの情報が頭の中で交錯して一個の絵を形作る快感というのは読書好きの醍醐味だね,うん。<BR>
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戦争プロパガンダ 10の法則
戦争プロパガンダ 10の法則
著者: アンヌ・モレリ, Anne Morelli
出版社: 草思社
評価: ★★★★
カテゴリ:
コメント:  ベルギーはブリュッセル自由大学の歴史批評学教授,アンヌ・モレリの書いた「いかにしてわれわれは心配するのをやめ戦争を愛するようにしむけられるか」というハウツー本。第一次世界大戦後の1928年に,イギリスの政治家,アーサー・ポンソンビーが著わした「戦時の嘘」を元に,戦時下におけるプロパガンダのメカニズムについてまとめたものである。原著の出版は昨年,米国でいわゆる「同時多発テロ」が発生する前のことだが,その内容はまるであの事件のあとの経緯を見て書いたと言ってもおかしくないくらいだ。<BR>  モレリによれば戦争プロパガンダは必ず,「われわれは戦争をしたくはない」という言葉で始まるのだそうだ。われわれは争いを好まない,なによりも平和を愛している,「しかし敵側が一方的に戦争を望んだ」のだと続く。なぜかというと「敵の指導者は悪魔のような人間だ」からであり,彼を滅ぼすのは神の意志,「われわれは領土や覇権のためではなく,偉大な使命のために戦う」のである。<BR>  そうして戦争が始まると,時として非戦闘員の死者も出る。が,そういうことで厭戦気分が広がるのは阻止しなければならない。「われわれも誤って犠牲を出すことがある」と言い訳をし,「だが敵はわざと残虐行為におよんでいる」と敵の邪さを強調する。こっちは正々堂々戦っているのに,「敵は卑劣な兵器や戦略を用いている」のだ。<BR>  にも関わらず,「われわれの受けた被害は小さく,敵に与えた被害は甚大」であるのは,正義がわれわれの側にあるからだ。その証拠に「芸術家や知識人も正義の戦いを支持している」ではないか,そうとも,「われわれの大義は神聖なもの」なのだから,国民はすべからくこの戦争に協力すべきであり,「この正義に疑問を投げかける者は裏切り者である」と,こういうわけだ。<BR>  「どんなウソも繰り返すうちに本当になる」というのは確かナチスの宣伝大臣ゲッペルスの言葉だった。このところテレビや新聞でさんざん繰り返されるので,サダム・フセインが核兵器を作っていてしかもそれができるやいなやアメリカに向けて発射するつもりであるように感じているヒトも多かろうが,いくら何でもそんなノータリンをイラク国民が大統領にしておくわけはないのである。もっと言えば,フセインだってちゃんと選挙を戦って大統領になっているんであり,その選挙もブッシュがゴアに勝ったそれに比べりゃよっぽと公明正大に見えた。そーゆーことを忘れてはいけないと思うのだ。
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BH85
BH85
著者: 森 青花
出版社: 新潮社
評価: ★★★★
カテゴリ: 日本 ユーモア 小説 ファンタジー SF
コメント:  著者のモリさんとはお知り合い。京都…大阪だっけ? 在住の主婦兼鬼のようなプロレスファンのヒトであり,東京に観戦に来た時などには新宿で飲んだりしたもんなのだ。この本はそんなモリさんが,1999年に日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞した作品。<BR>  元々は「究極の毛生え薬」であった遺伝子組替え生物 BH85 がひょんなことから突然変異して大増殖,京都府鳥羽下水処理場を皮切りに,生きとし生けるもののあらかたをその一部としながら遂には地球を覆い尽す,というパニック小説…なんだろうなぁ。早い話 (ちっとも早くないか) ,諸星大二郎のデビュー作「生物都市」の毛生え薬版である。<BR>  この新生物,ネオネモに生物が融合し,その意識が共有されるトコロの描写がすばらしい。あ,ワシも融合したい,とか思ってしまうもんね。至る所暗緑色の新生物に覆われた町の風景なんかは水木しげるの「原始さん」を彷佛とさせる。いや面白うございました。吾妻ひでおの挿し絵も吉。
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「パチンコ依存症」からの脱却―パチンコへの誤解と恐ろしい病にあなたは蝕まれている!
「パチンコ依存症」からの脱却―パチンコへの誤解と恐ろしい病にあなたは蝕まれている!
著者: 伊藤 耕源
出版社: すばる舎
評価: ★★★★
カテゴリ: 社会 病理
コメント:  この本は,「パチンコを辞められない」というのもアルコールやタバコ・薬物等の依存症と同様病気であるという前提のもとに,まず「パチンコを確率論的に論じ,『勝てる』という幻想を正し」,次に「パチンカーの心理を理解し,ギャンブルと人生の関わりを再考させ」,最後に「依存症から脱却するための具体的なプログラムを呈示する」ものである。内容は大真面目だか説教臭くはない。読んだヒトがパチンコを辞める気になるかどうかは分からないが,少なくともアホな幻想からは解放されるのではなかろうか。<BR>  あ,そうそうそれを書いておかねばな。オレ自身はもう8,9年前,「ハネモノ」が消え「CR機」というのがお目見えしたころにパチンコはやめてしまった。本書によればお客のほとんどが「パチンコはギャンブルだ」と認識しているそうだが,オレはそう思えなくなったのでやめたのである。ギャンブルっつうのはもう少し勝てる確率が高いものを言うんだってば。オレの考えではあれはまさしく「遊技」であって,「遊技料」を払ってチンチンジャラジャラさせてもらうだけのものになっちまったのだ。<BR>  ではやめたワタシがなんでこんな本を買ったかというと,ひょんなことからこの本を紹介したウェブページを見つけて興味を持ったからなのね。この本では1998年7月に,日本テレビが制作・放送した「実録180日・見たぞ驚異のパチプロ軍団」という番組を「パチンコには勝てる方法があるという誤解を助長するヤラセ番組」として糾弾しているのだが,ウェブページには作者が日本テレビに内部調査を要求した,その後日談が掲載されているんである。いやいや,日本テレビはもっと真摯な態度で応えて欲しいもんである。こんな番組作ってる局の番組で「パチンコ屋の駐車場で子供が熱射病」つうニュースに眉を顰めて見せるなんて,偽善もいいとこやないですかサクライさん。
関連本棚:
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ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団 ハリー・ポッターシリーズ第五巻 上下巻2冊セット(5)
ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団 ハリー・ポッターシリーズ第五巻 上下巻2冊セット(5)
著者: J.K.ローリング
出版社: 静山社
評価: ★★★★
カテゴリ: ファンタジー イギリス
コメント:  やぁ馬鹿にするヒトはするがよい,これはまたなかなかの傑作であります。<BR>  前作「炎のゴブレット」で遂に復活を遂げた「闇の帝王・ヴォルデモート」,しかしコトナカレ主義の魔法大臣ファッジはそれを信じず,逆にその証人である少年ハリー・ポッターの信用を失わせようと画策するのだった。夏休みで人間界に戻っていたハリーは,従兄弟のダドリーと一緒にいるところを吸魂鬼に襲われ魔法を使って撃退する,が,その魔法使用が問題になり彼は魔法省の尋問を受けることに……。<BR>  こんなことを言うのは負け惜しみじみて嫌なんだが,この作品を主人公と同じ年代で読んだら感じ方が違うんだろうなぁ,という思いが残る作品。なんつか,オトナになったオレは,読んでて主人公の行動に対し「このガキ,なんでそんなトコで意地を張るのだバカめ」とか「てめーが生意気言ってるからこんなコトになってしまったではないか」とか思ってしまうんだが,ふと気がつくと思春期(言わないと思い出せないがオレにもあんたにもあったのだ)の頃だったらそうは思わなかったような気がするんである。まどろっこしいと言えばそうなんだが,こんな風にまどろっこしかったから子供のころ時間が経つのってゆっくりだったとも言えるんぢゃないかと。……まるきりおっさんの感傷ですな,これでは。<BR>  蛇足ながら「上下セット以外では売らない」というこの出版社の態度,オレは好感を持ってます。
関連本棚: N_A もりかつ クニ halchan はぼ Machic hengsu matoken monokuro あんじぇ ccscat 綾瀬まなみ 紫雲 GRA 晒し ラダガスト snook. de book フミカ ma 氷織 うひゃん とむの棚 トモナリ 2005年10月〜2006年・しんじ AKI 山形Fan 煩悩爆発とりかさん KTP 育休中 pixy めたろう あれあれ Mikan Akashita
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2001年映画の旅―ぼくが選んだ20世紀洋画・邦画ベスト200
2001年映画の旅―ぼくが選んだ20世紀洋画・邦画ベスト200
著者: 小林 信彦
出版社: 文藝春秋
評価: ★★★★
カテゴリ: 評論 映画
コメント:  うー,楽しい本である。まずなんといってもカヴァー絵がいい。これ,黒澤明監督の「野良犬」での三船敏郎と志村喬である。白いスーツにハンチング,という格好が馬鹿みたいでなかった時代のかっこいいミフネだ,あんた (と偉そうに書くがオレも劇場で観たわけではない,封切りの時は産まれてないしな) 。<BR>  この本は2部構成になっている。前半は小林さんの選ぶ20世紀の洋画,邦画のベスト100という企画読み物。後半はいろいろなところに断片的に書かれた映画に関わるエッセイを集めたものである。本文中にもあるが彼はある時期で映画評論を書くのを辞めており,ここに納められのは評論ではなくあくまで映画にまつわるエッセイである,らしい。そういう風に厳密な分け方をする小林さんがオレは好きだが全然真似しようとは思わない。世代の差かも知れぬ。<BR>  ともかく選ばれた洋画100本のウチ,オレが観ているのはたったの15本,邦画に至っては10本に満たない。まぁどっかの偉いさんが選んだ「ニッポンの百名山」とかいうのを踏破してナニかを成し遂げた気になる,という類いのメンタリティはさらさらないのでそう残念でもないのだが,小林さんの紹介文を読むと観たくなるなぁ。<BR>
関連本棚: 増井
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賭博と掏摸の研究
賭博と掏摸の研究
著者: 尾佐竹 猛, 加太 こうじ, 藤田 幸男
出版社: 新泉社
評価: ★★★★
カテゴリ: 歴史 犯罪
コメント:  著者の尾佐竹先生は司法官で大審院判事まで務め,「日本憲政史」とか「明治文化史としての日本陪審史」などの著作もあるなんというか大学者なんだが,肩書きのわりに,というか反してというべきか,そうとうくだけたヒトだったらしく,この本も文語体でありながら慣れるとスイスイと読める面白さなんである (ただし注釈無しに引用されている古文書,漢文の類いは除くが) 。<BR>  賭博の研究においては,日本でおこなわれる賭博をサイコロ系とカルタ系に分類,そのルーツが実は一つであることを解き明かし,返す刀でサイコロ賭博の種類と方法を克明に記して行く。一個でチョボイチ,二個でチョウハン,三個でキツネ,四個でチイッパ,五個がテンサイというぐあい。次にはイカサマの手口,昔の時代劇でしか観たことがなかったが,ほんまに中から針が出て来てひっかかり,出目を左右できるサイコロとかがあったんである (センセイ,明治期にそれを売っていた店の新聞広告を引用している〜これを全文ここに書き写せないのが残念だ)。<BR>  続くは掏摸,まず掏摸の技術がこれほど発展したのは日本だけであり,斯様に小手先が器用なのは幼時から箸を使ってものを食うせいだという (そのわりに「支那人に掏摸の才能なし」と断じているのがヘンなんだが) 。その上で日本が誇る (実際誇っているように読めるのがおかしいんだが) 掏摸の技術,手口について詳細を記し,江戸時代の稲葉小僧などら明治に名高い仕立て屋銀次の捕縛と判決までを解説する。<BR>  目ウロコ話が山ほどある,詐欺賭博の類いのことを関東ではイカサマと呼んだが関西ではインチキと言う,同じ掏摸と言う字をスリと読むのは関東の語で,関西ではチボと読んだ,コートに鈴を下げてそれを鳴らさずにスり取れるように修行するというのはウソだ,修行は全部実習である (オレなど子供の頃にちばてつやの漫画で読んで信じていたのだがなぁ) ,なりたての掏摸はモノを取ったらすぐに駆け出す,なので「駆け出し」という等々,目からウロコが落ちる音が半径450mくらいに響き渡った。
関連本棚:
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人はなぜエセ科学に騙されるのか〈上〉 (新潮文庫)
人はなぜエセ科学に騙されるのか〈上〉 (新潮文庫)
著者: カール セーガン
出版社: 新潮社
評価: ★★★★
カテゴリ: 教育 科学 社会
コメント:  なかなか刺激に満ちた本であとで引用したくなるようなフレーズ,データが随所に出て来る。例えば5回続けて表を出したコインを投げて次に裏が出る確率は実は表が出る確率と同じである,ところがヒトはそうは思いたがらない。セーガン博士は言う,「人は乱数にすら意味を求める」。<BR>  このセーガン博士,Appleのなにかのプロダクトのコードネームに自分の名前を使われたこと(もちろんこれは「敬意を表してのこと」だった) に抗議して,アップルの技術者がそのコードネームを「石頭の天文学者」と変えたことがあるほど,厳格で融通の効かない面もあるヒトなんだが (この本の中でもテレビのSFモノを批判してるところなんかはそういう感じがする) ,いやしかしこの本で彼が提起している問題はどこの国でも,特に「先進国」と呼ばれる国において,もっと真剣に考えられるべきだと思う。<BR>  「アメリカの学童は十分な勉強をしていない」という,世界規模の学力テストの結果を見ての彼の意見の感想として,高校1年生が以下のようなことを書いて来るクニはちょっとやばかろう? 「よその国みたいに賢くないのはかえっていいかもしれないと思います。どうしてかというと私達は製品を輸入すればよくて,そういう部品をつくることにばかりお金をかけなくて済むからです」 「よその国の方が優秀だからってそれがなんだって言うんだ。どうせみんなアメリカに来たがってるんぢゃないか」
関連本棚: shigeru njin 増井1 6期生 miyano suchi kojima
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大本営発表は生きている (光文社新書)
大本営発表は生きている (光文社新書)
著者: 保阪 正康
出版社: 光文社
評価: ★★★★
カテゴリ: 歴史
コメント:  昭和16年12月8日から昭和20年9月2日の降伏文書への調印まで,45ヶ月間にわたる太平洋戦争の間,実に846回行なわれた「大本営発表」。現在ではその印象が一人歩きし,単に信用できない官製報道,建前と嘘で固めた不実なニュースという意味合いで使われることが多い。本書はその全貌を丹念に掘り起こし,選り分け,当時の軍関係者がなぜ客観的事実から目をそらせ事実を隠蔽しようとしたか,彼らがその先に(事実はいずれ明らかになる)どんな終末を心描いていたのかを明らかにしようという労作である。<BR>  いささか乱暴に,しかもいかにもオレ風に要約すると,(1)米英相手に戦争をやっても勝ち目はないという意見を押し切って戦争を始めた。(2)なので個々の戦闘でも「負けた」という報告はしにくく嘘をつくことになった。(3)勝った勝ったと報告しているのに実際には負けているわけだからどんどん現実と報告との乖離は大きくなった。(4)嘘がバレるの怖さに一億総玉砕を唱えて国民と無理心中を図った,ということになる。いや,帝国軍人はそんな卑怯者ではない,というご意見はあろうし,保坂さんもオレよりは同情的で「それは戦争というシステムを理解できなかった悲しい報告書だった」と論じているんだが……。<BR>  まぁ昨今なにやら元気になってきた感のある「日本は偉いぞもいちど戦争するぞ」派の勇ましくて少し足りない市民の皆さんには是非とも読んでいただきたい本である。<BR>
関連本棚: あおしま tmiura
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官能小説用語表現辞典
官能小説用語表現辞典
著者:
出版社: マガジンハウス
評価: ★★★★
カテゴリ: 官能 辞典 表現
コメント: hello makakas http://pitecan.com/Bookshelf/A4D9/4838713592.html|http://www.hondana.org/programs/write.cgi|shelf=べ*h|category=官能,辞典,表現,日本語|score=★★★★|isbn=4838713592*h|comment=|
関連本棚: 五つ星
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「数」の日本史―われわれは数とどう付き合ってきたか
「数」の日本史―われわれは数とどう付き合ってきたか
著者: 伊達 宗行
出版社: 日本経済新聞社
評価: ★★★★
カテゴリ: 歴史 日本 数学
コメント: hello makakas http://pitecan.com/Bookshelf/A4D9/4532164192.html
関連本棚: stonechild-2
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話の後始末
話の後始末
著者: 立川 志の輔, 天野 祐吉
出版社: マドラ出版
評価: ★★★★
カテゴリ: 対談
コメント:  立川志の輔・天野祐吉の……なんというかまず志の輔師匠の落語があって,そのあとでその落語についてだったりそうぢゃなかったりする四方山話を天野さんとする,というライブ数本を収録した変わり種の対談集 (つうコトになるんだろうな,これも) 。……オレ,経験があるから言うけどテープ起こししたヒトは大変だったろうなぁ。<BR>  落語は「だくだく」,「粗忽長屋」,「バールのようなもの」,「文七元結」,「井戸の茶碗」の5本。「バールのようなもの」だけが新作であとは古典,なのでまぁ「バールのようなもの」以外はオレも実際に寄席やテレビやラジオで聞いたり興津要先生の本とかで読んで知ってる話なんである。が,なにを隠そう志の輔師匠の落語は聞いたことがないのでなかなかにこういう口述本は興味深い。ああ寄席に行きたくなるなぁ。<BR>  それはさておき,「だくだく」(知らないヒトのために解説するとこれは,貧乏なので壁に家財道具の絵を描いてモノがあるつもりになって暮らしているオトコのところに洒落の分かる泥棒が入ってたがいに「つもり合戦」をやるという話である) のあとの対談。天野さんの「東京の水不足の時にコメンテータとしてテレビに出て,『東京の人間はみんなわがままで,水なんてあって当たり前だと思ってる。だから懲らしめるためにしばらく雨は降らなくていい』と発言したら抗議の電話がいっぱい来た」という話が身につまされた。<BR>  天野さんによれば「病院はどーするんだ!」とか,そういう怒りの電話が来たんだそうで,そーゆー話をしてるんではないっちゅうのね。オレも以前ほぼそっくりの目にあったことがあるけど,いちいち病院のことまで考えて冗談言えない,冗談と言って悪ければ違った視点は提示できない。テレビにしたって「一刻も早く雨が降るといいですねぇ」みたいな思考停止のコメントを言わせるために天野さんにギャラ払ってんぢゃないだろうに,こういう抗議にウロタエるなよな,と思うのだがねぇ。<BR>
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