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からくり民主主義
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著者: |
高橋 秀実 |
出版社: |
草思社 |
評価: |
★★★★☆ |
カテゴリ: |
ドキュメント
社会
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コメント: |
一読して,ようようこういうことを専門にルポするヒトが出て来たか,と思った。以前,シグマ計画のてん末について「SPA!」の取材を受けた(なんでオレが?とはオレも思ったけどね)時に同じような話をしたのだが,自分の専門分野のことが新聞や雑誌に取り上げられた時に感じる隔靴掻痒感や非現実感みたいなものって,きっとどの業界のヒト,どの事件の当事者にも共通しているコトなのだと思うのだ。<BR>
オレたちは「シグマ計画」について「こいつらあほか」と思ってたし,防衛庁のシステムの開発チームにオウムの子がまぎれこんでいた事件の時には「なんで騒ぐねん,いて普通やんか」と話し合ってた。同じように「報道される米軍基地問題」と地元のヒトの見ている現実は違うものだし,若狭湾原発銀座に住む「事故報道に不安を隠せない」はずのヒトビトの本音は「たまに事故が起って反対派が騒がないと補助金が減る」だったりするんである。<BR>
まぁありがちな表現を使えば「ニッポンの建て前と本音」つうことなんだが,今まで「そういう構造」について書くヒトというのはあんまりいなかった。「ゲンパツは危険ですコレデイーのか?」「諫早湾でムツゴロウが死んでいますコレデイーのか?」「統一教会のマインドコントロールは親から子を奪いますコレデイーのか?」……てなぐあいに,このテの問題に対するアプローチというのはたいてい「個別の問題に対する真正面からの告発」であり,「これがゲンジツです,これでイーのか?」と問うものだったのだ。<BR>
この本の著者・高橋さん(オレと同年なのだ)は,上にあげたような現場に「えらく遅れて」取材に行く。新聞やテレビや週刊誌の取材が帰ってさらに1年も経ったあとで取材に行くのだ(本人はいつも「出遅れる」と書いている)。そして当事者のみなさんと「世間話」をする。するとそこにはもともとそこにあった問題ではなく,それが「報道」というフィルタをどう通って行き,問題自身をどう変質させていったか,が見えてくる。で,その構造が同じなんですね,みんな。そして,そのフィルタの外側,つまり報道を通した結果としてオレタチが見るものは「からくり民主主義」なんである。どっとはらい……というべきか(笑)。 |
関連本棚: |
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増井
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増井の処分予定本
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食べるアメリカ人
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著者: |
加藤 裕子 |
出版社: |
大修館書店 |
評価: |
★★★☆ |
カテゴリ: |
健康
アメリカ
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コメント: |
オビにある,「アメリカ人は,なぜあんなにマズい食事で平気なのか?」という宣伝惹句にノセられて買ってしまった235ページ。この設問への答えとしてあげられているのはピューリタン的禁欲指向,開拓時代に培われた味より便利さへの渇望,そしてそれが行き着いた果ての,「オフクロの味は缶詰スープ」という現実など,目からウロコが落ちるような話ではない。まぁCIAやNSAの陰謀でメシがまずいわけもないが。<BR>
面白かったのはアメリカ人のどっかおかしい健康オタクぶりや,傍若無人なスシの食い方など,オレも常々思っていたあれこれが取り上げられていること。思わずそうそう,そうなんだよね,と同意首肯させられる。普通の日本人なら3食分はゆうにありそうな量のメシをコーラの1リットル瓶で腹に流し込みながら「日本食はローカロリー,ローファットだというから食ってるんだがちっとも痩せない」と愚痴るおばさんを見たことがあって,オレも「そんだけ食うなら何食っても一緒ぢゃないのか」と思ったもんな。<BR>
その他,アメリカで美味しいものを食うには郊外のエスニックを狙えだとか,結婚祝いの贈り物として定番のクックブックの話だとか,ベジタリアンの種類だとか,スラスラ読めるだけでなく史料的な価値もありそうだ。ここ数年,毎年行っている,バークリーのレストラン「シェ・パニーズ」の創業者アリス・ウォーターズの開店直後の苦労話なども興味深い。 |
関連本棚: |
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職人学
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著者: |
小関 智弘 |
出版社: |
講談社 |
評価: |
★★★★★ |
カテゴリ: |
文化論
技術
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コメント: |
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関連本棚: |
hiroc
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アメリカ新上流階級 ボボズ―ニューリッチたちの優雅な生き方
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著者: |
デイビッド ブルックス |
出版社: |
光文社 |
評価: |
☆ |
カテゴリ: |
アメリカ
文化
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コメント: |
一言,もの凄く不愉快な本。途中で何度も読むのをやめて放り投げようかと思ったが,読み終えてウェブとかに悪口を書きたい書いてやる口を極めて罵ってやるというその一心で我慢して読んだ。<BR>
「ボボズ」とは著者によれば「Bourgeois Bohemians」の略,簡単に言えば高学歴かつ高収入のアメリカの知的エリートたちのこと。著者のブルックスは自らをその一人として,前世紀(と書くと恐竜が出てきそうな気がするがオレの産まれた20世紀のことだ)前半,アメリカ社会の支配層であったブルジョアの価値観と60年代,それに異議を唱えたカウンター・カルチャー系のボヘミアン文化を融合して新たな時代の担い手となる人々であると位置づける。<BR>
オレのようにひねた読者でなければ(例えばこの本の翻訳者であるセビル楓さんのようなヒトであれば),気取らず親切で洗練された彼等の生き方に共感したり憧れたりできるだろう。酒よりコーヒー,美食より健康,ヤッピーの俗物性を嫌い,サバティカルを取ってボランティア活動に精を出す……。が,こう言っちゃなんだがそれらはマリー・アントワネットの洗練であり白木葉子の慈善ではないのか。<BR>
世界の5%にも満たない人口で世界の半分のエネルギーを消費するアメリカという国で,その政策(今この国でタケナカが真似しようとしている政策だが)ゆえに拡大した貧富の差の上澄みの部分にいるニューリッチどもが,週末に郊外のラテ・タウン(彼等が住む街をこう呼ぶのだ,バーよりコーヒーハウスが多いから)のカフェで熱帯雨林の大切さについて静かな口調で語り合って,ボクらは自然を大切にしている偉いでしょ,というのである。京都議定書の批准を拒否するジョージ・W・ブッシュを「ボボズ」代表として支持しながらだ,バカぢゃなければ偽善だろ? これ。<BR>
本書がアメリカで上梓されたのは2000年,つまりあの9.11以前なわけだが,この翻訳なった2002年の段階で訳者のセビル楓さん,解説を書いておられる明治大学の越智道雄センセともに,この本に書かれた彼等が9.11に続くアメリカのアフガン攻撃やユニラテラリズムへの世界からの批判についてどう考えているのかに言及していない。彼等の中でもグレードが高いのは外交政策に関わる仕事と書いてあるにも関わらずだ。てめぇらナルシストのためにアフガンやイラクで子供が死ぬんだよかったな,け,と燃え尽きた矢吹丈に代ってワタシが言わせていただきたい。 |
関連本棚: |
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死んでいる
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著者: |
ジム クレイス |
出版社: |
白水社 |
評価: |
★★★★☆ |
カテゴリ: |
小説
イギリス
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コメント: |
hello makakas http://pitecan.com/Bookshelf/A4D9/4560047197.html|http://www.hondana.org/programs/write.cgi|shelf=べ*h|category=小説,イギリス|score=★★★★☆|isbn=4560047197*h|comment=hello makakas http://pitecan.com/Bookshelf/A4D9/4560047197.html| |
関連本棚: |
Twitter読書会
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シティ
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著者: |
アレッサンドロ・バリッコ |
出版社: |
白水社 |
評価: |
★★★★★ |
カテゴリ: |
小説
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コメント: |
hello makakas http://pitecan.com/Bookshelf/A4D9/4560047413.html|http://www.hondana.org/programs/write.cgi|shelf=べ*h|category=小説,イタリア|score=★★★★★|isbn=4560047413*h|comment=hello makakas http://pitecan.com/Bookshelf/A4D9/4560047413.html| |
関連本棚: |
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官能小説用語表現辞典
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著者: |
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出版社: |
マガジンハウス |
評価: |
★★★★ |
カテゴリ: |
官能
辞典
表現
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コメント: |
hello makakas http://pitecan.com/Bookshelf/A4D9/4838713592.html|http://www.hondana.org/programs/write.cgi|shelf=べ*h|category=官能,辞典,表現,日本語|score=★★★★|isbn=4838713592*h|comment=| |
関連本棚: |
五つ星
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タイムトラベルの哲学―「なぜ今だけが存在するのか」「過去の自分を殺せるか」 (講談社SOPHIA BOOKS)
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著者: |
青山 拓央 |
出版社: |
講談社 |
評価: |
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カテゴリ: |
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コメント: |
SFに出て来るタイムトラベルの分析 (その実現可能性の分析ではない) から,なんとい
うか時間論を哲学するココロミ……というべきなんだろうか。面白くは読んだが説得はさ
れなかった,という読後感である。<BR>
具体的に行こう。まずは4章「タイムトラベルと2つの今」の中での「私の今」と「動く
今」に関する考察が,オレにはなんかヘンな感じがした。一切の実証が不可能でありなが
ら「動く今」のイメージが有効に働くのはそれが「決して他人と共有され得ない『私の今
』」の「生活の為に必要な方便的サブセット」だからぢゃないのかな。青山クンの言葉を
借りれば「動く今」と呼んでいる方の今こそが「私の今」の手下なんだ,というのがオレ
の「感じ」なんだけどな。<BR>
もひとつ,こっちは別に違和感ではないんだけど,9章「タイムトラベルと同一性」の
議論の中で,ニュートン力学から相対論への飛躍を論じた部分「時間概念の構成に用いる
無根拠な同一性の選択」という言葉はちと分かりにくかった。ニュートン力学から相対論
への「移行」(飛躍かなぁ) は,ヘンな言い方をすれば「限定解除」なんだよね。ニュー
トンにはどのような同一性の選択肢もなかった,アインシュタインはその選択肢を得て,
その中で最も遠くまで (この「遠く」は時間的にも空間的にも,というか時間と空間の区
別がなくなるところまで,なんだけど) 有効でありそうな選択をした,のだと思うのね。
<BR>
こっからは本を読みながらずっとオレの頭が「哲学してた」部分なんだけど,子供のこ
ろ,時間について最初に考えたのはアキレスと亀みたいなことだったんだよ。オレは母親
の実家である寺で幼児期を過ごしたんだけど,メシの前に毎朝お経をあげなきゃいけない
のね。で,冬の寒い日とかに口のなかでモゴモゴ言ってた時,ふと,「……ということを
ボクは今考えてるんだ……ということをボクは今考えてるんだ……ということを」って考
えた。びっくりした。言葉は同じだけど,これを一度思う度にその中身は違う,その「今
」も違う。それは単なる経過のようでいて認知が絶え間なくメタになっていく過程なんだ
よね (もちろんそんな気の利いた言葉は知らなかったが) 。<BR>
人間の生存ちうのをこの意味で認知のインフレーションであり,同時にエントロピーの
消費だと考えれば,熱力学の法則をメタファーとして使って,そも命というのは「時間に
関しての位置エネルギーみたいなもの」と考えられそうデハナイデスカ,なんて。……ひ
さびさに知恵熱出そうであります(笑)。 |
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佐治道綱
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一人の男が飛行機から飛び降りる (新潮文庫)
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著者: |
バリー ユアグロー |
出版社: |
新潮社 |
評価: |
★★★★★ |
カテゴリ: |
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コメント: |
不条理と言えば不条理,脈絡がないと言えば脈絡がなく,悪夢だと言われればそうかもしれない,と思わせるようなごく短い話が149編納められたなんとも変わったテイストの本。著者のユアグローは南アフリカ出身,現在はアメリカに住んでいる。70年代からこのテの作品を発表,80年代にはMTVとかで自作短編の朗読とかもやっていたらしい。<BR>
で,このテイストをなんとか真似できないもんかと<a href="http://snakehole.air-nifty.com/yourgrau/">ゆあぐろ風</a>というblogを立ち上げてみました。興味があればご笑覧あれ。 |
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元文学部生
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性的不能者裁判―男の性の知られざる歴史ドラマ
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著者: |
ピエール ダルモン |
出版社: |
新評論 |
評価: |
★★★★ |
カテゴリ: |
歴史
社会
宗教
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コメント: |
カトリック教会によって離婚が罪とされていた中世から近世にかけてのヨーロッパで,唯一結婚の解消が認められたのが「夫あるいは妻が性的に不能で『結婚』を成就できない」場合だった。性的不能を理由とした離婚の訴えは,聖職者を判事とする公開の場で取り上げられ,現代の基準に照らせばまぎれもなくセクハラと言える尋問の果て,遂には「コングレ(性交実証)」と呼ばれる……なんてんですかね,ナマ板ホンバン? まで強制されていたのである。<BR>
この本は16〜17世紀フランスの「性的不能による婚姻無効訴訟」の記録を丹念にたどり,いかに倒錯した心性が神に仕える聖職者をしてこのような愚行に熱中せしめたのか,を追求した歴史学の論文である。結論を乱暴に要約すれば,肉体的には頑健正常(むろん性的にも,だ)でないとその資格を与えられないにも関わらず,女の肉体は悪魔の罠であると教えられ禁欲を強いられていた当時の聖職者にとってこの種の審判は「脳中に罪を犯す」絶好の機会だったというわけなんだが……。<BR>
そもそもカトリック教会が聖職者に妻帯を禁じたのは,相続によって教会財産が流出するのを恐れたからで,聖書に根拠があることではない(西暦306年の教会法で規定)。信者に婚姻外の性交渉を禁じたのも元を糺せば財産を巡る争いの元になるからだった。この2つの裏を返せば,貞潔の誓いというものは婚姻さえしなければ守られていることになるわけで,10〜14世紀,結婚しない聖職者はヤリタイ放題ヤっておったと(13世紀のある司教は産ませた私生児が65人を数えるまで何の罰も受けなかった)。<BR>
……このなおざりにされていた禁欲が,16世紀頃になってにわかに(少なくとも表面上)守られるようになったのは別に突然真の信仰に目覚めたわけぢゃなくて,早い話新大陸からやってきた性病の蔓延のせいなんだよね。このへんの事情は以前読んだ「性病の世界史」に詳しかったんだが,こんな風に全く別に読んだ複数の本からの情報が頭の中で交錯して一個の絵を形作る快感というのは読書好きの醍醐味だね,うん。<BR> |
関連本棚: |
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人はなぜ学歴にこだわるのか。
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著者: |
小田嶋 隆 |
出版社: |
メディアワークス |
評価: |
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カテゴリ: |
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コメント: |
著者の小田嶋さんは私とちょうど5歳離れている。そのせいかどうか,私は自分の友人達の最終学歴なんか逐一把握しておらず,それで落ち着かない気分になったこともなかった。ついでに言えばワタシはヨワイ40にして結婚もしておらず,子供もいないのでその進学だの教育だのにかまけることもない。だからそのヘンには共感しようにもデキない。んだがいやしかし,他の話はいちいち頷けるもんがあったね。そう,学歴って確かに小田嶋さんが言うような存在だよね,確かに。<BR>
ヘンな言い方なんだが,絶対にこのヒトはこの本を読まないだろうな,と思われるヒトにこそ読んでもらいたい,そんな本である。あ,そだそだ,あとワセダを出たマスコミ関係者はこれをちゃんと読んで,彼が「なんでマスコミが騒がないのか」と疑問に思っているコトについてなんか答えを出して欲しい。お前らがそういうことのためにマスコミにいるわけぢゃないのは分かってるけど,たまには「誠意」というものを世間に示すことも必要だよ。 |
関連本棚: |
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学歴・格差
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十二支考〈上〉 (岩波文庫)
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著者: |
南方 熊楠 |
出版社: |
岩波書店 |
評価: |
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カテゴリ: |
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コメント: |
明治が産んだ日本の大学者,南方熊楠の名著。大正3年から12年にかけて雑誌「太陽」に連載した「虎に関する史話と伝説,民俗」から「猪に関する民俗と伝説」までの十編に,後にまとめられた「鼠に関する民俗と信念」を加えて昭和26年にようやく刊行された(牛の稿はついに書かれなかった)もの。博覧にして強記,傍若にして無人なる熊楠先生のおそらく,現在でも手軽に入手可能な唯一の業績(リンクは岩波文庫版だが,私が持っているのは東洋文庫版全三巻です)。 <BR>
以下,知らないヒトのために熊楠について記す。 <BR>
慶応3年(1867年),和歌山に生まれる。幼児より天才的記憶力を示し,中学卒業後上京,しかし大学には行かず明治19年渡米,ミシガン州立農学校に学ぶも,やがて粘菌類の独学研究のためここを中退して中南米,西インド諸島を放浪する。明治25年ロンドンに渡って大英博物館嘱託研究員となり「ネーチュア」などに数々の論文を発表。明治33年帰国,和歌山県田辺町に居を構える。生物学,博物学,民俗学,天文学,考古学など,精力的に研究論考を行う一方,森林の乱伐に異を唱えて投獄されるなど,奇行でもその名をとどろかす。一生涯在野の学者として昭和16年没(参考:神坂次郎「縛られた巨人」)。 |
関連本棚: |
としあき
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イヴの七人の娘たち
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著者: |
ブライアン サイクス |
出版社: |
ソニーマガジンズ |
評価: |
★★★★☆ |
カテゴリ: |
生物学
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コメント: |
かなり前のニュースだが,覚えているヒトもいると思う,ミトコンドリアDNAの分析から,現代人全ての「母」にあたる女性が15万年前のアフリカにいたことが判明し,彼女は当然ながら「イヴ」と名付けられた,という話だ。この本はあの研究を行った,オックスフォード大学人類遺伝学教授ブライサン・サイクスそのヒトが,その研究内容を一般向けに噛み砕いて解説したノン・フィクションである。<BR>
この研究のよすがである「ミトコンドリアDNA」とは,細胞質にあって人間の活動エネルギーを生み出す働きをしている器官である。このミトコンドリアのDNAには,他の遺伝子と違って母方からしか受け継がれないという便利な特徴がある。昔バラの育成シミュレーション・ソフトを書いた時に出て来た植物における「細胞質遺伝」というのと同じようなものだナ。おまけにこのミトコンドリアDNAは,約2万年に一度の割合で突然変異を固定することが分かっている。なので例えばこれを読んでいるアナタとオレのミトコンドリアDNAを比べて,その違いの数を数えれば二人の共通の先祖 (母系) までどのくらい遡れば到達するのか,だいたい万年単位でわかる,という寸法なんですね。<BR>
……とは言え,それを実証するまでミチスジはもちろん平たんなものではなく,波乱万丈ヤマナカシカノスケなノン・フィクションになっている。なかでもワタシの心に残ったのは,かのヘイエルダール (こないだ亡くなった) が,コン・ティキ号で「実証」したポリネシア人の南米起源説がミトコンドリアDNAの研究ではっきりと否定されていたことである。これ,言葉は悪いがもっと宣伝すべきだと思うなぁ。まだまだ堅く信じているヒトが周りにたくさんいそうである。<BR>
結論として現在イヴの子孫には35の系列があることが判明している。このウチ東ユーラシア系はアメリカ系を含めて7系列ある。自分のDNAがどの系列かを知りたいヒトは,オクスフォードの研究所サイトに申し込むことができ,その<a href="http://www.sonymagazines.jp/mmt/200111080710">日本語インストラクション</a>がこの本の出版社,ソニーマガジン社に用意されている。やってみます?<BR> |
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どら
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ナンシー関大全
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著者: |
ナンシー 関 |
出版社: |
文藝春秋 |
評価: |
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カテゴリ: |
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コメント: |
「噂の真相」や「週刊文春」のコラムは好きでよく読んでいたが,こうしてまとめて読むのは初めて。それがいわば絶筆というか追悼編集モノなのはなんと惜しいことか。このヒトのコラムのいいのは視点・視座がぶれないこと。こういう風に言うと誤解があるかもしれないが,妙な上昇志向がないので,対象との距離感が(それが自分であっても)貫徹されているのだな,オレの大嫌いな林真理子と対極にある感じ。<BR>
TVと芸能界ネタは畑違いなので,書かれている対象のヒトを全然知らなかったりする場合もあるのだが,櫻井よしこの武器は「お上品爆弾」であると喝破し,返す刀でマスコミは皇室ネタに国民的「快楽のツボ」を見いだしたと分析する透徹はちょっと図抜けてる。いや,あらためて惜しいヒトを亡くしたもんである。彼女に比べたら死んでくれて惜しくない評論家なぞ掃いて捨てるほど生きてやがるもんなぁ(笑)。 |
関連本棚: |
のらねこ兵☆2
可楽まんだら草紙
楽しく生きるための100冊 2019
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¥999 BOOK PLUS
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著者: |
フレデリック ベグベデ, Fr´ed´eric Beigbeder, 中村 佳子 |
出版社: |
角川書店 |
評価: |
★★★☆ |
カテゴリ: |
青春
ユーモア
小説
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コメント: |
ヘンな題名だが,本国フランスで発売されたときの題名が「99F」つまり「99フラン」で,本の値段そのままだった。もちろん今はユーロになったので「14.99e(ユーロ記号のつもり)」に改められている,らしい。そして日本でも「¥999」というのが書名であり,また値段なのだ。税別999円で売っているわけである。 |
関連本棚: |
好
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妖星伝 (1) (講談社文庫)
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著者: |
半村 良 |
出版社: |
講談社 |
評価: |
★★★★★ |
カテゴリ: |
日本
小説
SF
伝奇
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コメント: |
半村良が実に20年の歳月を費やして完成した伝奇文学の最高峰。<BR>
我が国において,古来「神道」と対極にあったとされる「鬼道」,その信徒たちは皆超能力を持ち,破戒仏を尊み,戦乱と流血の影に暗躍して来たという。江戸は飢饉,腐敗の田沼時代,伝説の統率者にして不死身の存在「外道皇帝」が再臨するという……。<BR>
うう,これ以上なにを言えよう。読む者の宗教観,世界観,生命観,倫理観,宇宙観をもひっくり返す空前絶後の力業。日本語が読めるなら,「妖星伝」を読まぬうちに死ぬな。 |
関連本棚: |
ブースカ
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戦争プロパガンダ 10の法則
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著者: |
アンヌ・モレリ, Anne Morelli |
出版社: |
草思社 |
評価: |
★★★★ |
カテゴリ: |
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コメント: |
ベルギーはブリュッセル自由大学の歴史批評学教授,アンヌ・モレリの書いた「いかにしてわれわれは心配するのをやめ戦争を愛するようにしむけられるか」というハウツー本。第一次世界大戦後の1928年に,イギリスの政治家,アーサー・ポンソンビーが著わした「戦時の嘘」を元に,戦時下におけるプロパガンダのメカニズムについてまとめたものである。原著の出版は昨年,米国でいわゆる「同時多発テロ」が発生する前のことだが,その内容はまるであの事件のあとの経緯を見て書いたと言ってもおかしくないくらいだ。<BR>
モレリによれば戦争プロパガンダは必ず,「われわれは戦争をしたくはない」という言葉で始まるのだそうだ。われわれは争いを好まない,なによりも平和を愛している,「しかし敵側が一方的に戦争を望んだ」のだと続く。なぜかというと「敵の指導者は悪魔のような人間だ」からであり,彼を滅ぼすのは神の意志,「われわれは領土や覇権のためではなく,偉大な使命のために戦う」のである。<BR>
そうして戦争が始まると,時として非戦闘員の死者も出る。が,そういうことで厭戦気分が広がるのは阻止しなければならない。「われわれも誤って犠牲を出すことがある」と言い訳をし,「だが敵はわざと残虐行為におよんでいる」と敵の邪さを強調する。こっちは正々堂々戦っているのに,「敵は卑劣な兵器や戦略を用いている」のだ。<BR>
にも関わらず,「われわれの受けた被害は小さく,敵に与えた被害は甚大」であるのは,正義がわれわれの側にあるからだ。その証拠に「芸術家や知識人も正義の戦いを支持している」ではないか,そうとも,「われわれの大義は神聖なもの」なのだから,国民はすべからくこの戦争に協力すべきであり,「この正義に疑問を投げかける者は裏切り者である」と,こういうわけだ。<BR>
「どんなウソも繰り返すうちに本当になる」というのは確かナチスの宣伝大臣ゲッペルスの言葉だった。このところテレビや新聞でさんざん繰り返されるので,サダム・フセインが核兵器を作っていてしかもそれができるやいなやアメリカに向けて発射するつもりであるように感じているヒトも多かろうが,いくら何でもそんなノータリンをイラク国民が大統領にしておくわけはないのである。もっと言えば,フセインだってちゃんと選挙を戦って大統領になっているんであり,その選挙もブッシュがゴアに勝ったそれに比べりゃよっぽと公明正大に見えた。そーゆーことを忘れてはいけないと思うのだ。 |
関連本棚: |
偏食子ヤギ
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帝国以後 〔アメリカ・システムの崩壊〕
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著者: |
エマニュエル トッド |
出版社: |
藤原書店 |
評価: |
★★★★ |
カテゴリ: |
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コメント: |
アフガン,イラクとヤリタイ放題でいよいよ世界を統べる帝国たらんとしているかに見えるアメリカであるが,彼の国が真に世界帝国になりうるチャンスはとうに失われたのであり現在はその崩壊の過程にある,というフランス人歴史学者の挑発的分析の書である。 <BR>
まず,ソ連の崩壊以降世界は安定へと向かっているという基本認識が語られる。第三世界では未だイデオロギー的,もしくは宗教的熱病の発作のような争乱が見られるけれども,全体の傾向として発展と民主主義の確立へと漸進している……。ところがそうした方向を喜べない国が世界に一つだけある。それがアメリカ合衆国なのである。 <BR>
例えば今話題のイラク新法,もし北朝鮮が攻めて来たら(毎日餓死者を出してるようなクニがほんとに攻めて来られると思ってるヒトがいるのはワリと驚きなんだが)アメリカさんに守ってもらわなくちゃならないんだから賛成しなくちゃ,と言うヒトが結構いる。裏を返せば北朝鮮と仲良くできれば死ぬかもしれないイラクくんだりに我等が自衛隊を送る必要はないのであり,そうなると困るのは日本ではなくてアメリカだ。だからアメリカは軍事的に比較すればとるに足らないイラクやキューバ,北朝鮮を「悪の枢軸」と喧伝する。ヤツラと闘う正義のアメリカの言うことを聞け,というわけだ。 <BR>
著者の分析では,そろそろアメリカのこの論理に基づく「演劇的小規模軍事行動主義」(ブッシュの言う「テロリズムとの戦い」の上の文脈による言い換え)の底が割れて来ている,ということになる。今回のイラク攻撃に関しても,アメリカにとって「欧州にある保護領」であるドイツが公然と異を唱えた。「極東の保護領である日本もいずれ……」という期待はいささか買いかぶりぢゃないかと思うが,ともかく今や「消費しかできない世界の略奪者」たるアメリカの崩壊は歴史の必然だという分析には,賛否はともかく一読の価値があろう。 |
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欧米社会論
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二瓶
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ビター・メモリー (Hayakawa novels)
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著者: |
サラ パレツキー |
出版社: |
早川書房 |
評価: |
★★★★ |
カテゴリ: |
アメリカ
小説
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コメント: |
第1作の「サマータイム・ブルース」に登場以来ずっと彼女の「頼りがいのある姉」みたいな立場だった医師,ロティ・ハーシャルの過去を巡る物語である。原題は「
Total Recall」,同名の映画のイメージがあるのでそのままの邦題にしなかったんだと思うが,映画の方の原作はP.K.ディックの「追憶売ります」でその原題は「We ca
n remember it for you wholesale」なんだからややこしいよな。<BR>
閑話休題,恋人モレルがアフガニスタンに取材に行くことで憂鬱なV.Iは,黒人労働者サマーズからの依頼で彼の叔父にかかっていた筈の保険金詐欺事件を調べ始める
。同じ頃シカゴでは今も残るホロコースト被害についての会議が開催され,そこで「ナチスの生き残りによって虐待を受けながら育ち,最近催眠療法によって自分が実
はユダヤ人であることを思い出した」と称する男がスピーチを行う。ラドブーカと名乗るその男の名を聞いてロティは失神,わけを問い質すV.Iに彼女はかたく心を閉ざ
してしまう……。<BR>
ホロコーストとユダヤ人という重いテーマを真正面から描き切った力量はさすがだし,ミステリとしても謎解きもこれでいいんだろうが,1本の小説としてはバランス
に不満が残る。未解決の謎,というか「それであいつはどうなったの?」という当然語られるべきエピローグが欠落している印象。なんつうか,すっと追いかけている
シリーズだけに,そういう細部までを描くことによる物語の厚みを大切にして欲しいと思う。<BR>
それにしてもなるほど,「故人が生命保険に入っていたことを遺族が知らないという理由で,保険会社が支払わずに済んでいる金」というのはきっと想像以上に巨額
なんだろうな。言ってみりゃ使われないテレフォンカードみたいなもんだもんなぁ。オレもちゃんと親に聞いておかなければ。 |
関連本棚: |
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二度生きたランベルト
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著者: |
ジャンニ ロダーリ |
出版社: |
平凡社 |
評価: |
★★★★ |
カテゴリ: |
寓話
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コメント: |
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関連本棚: |
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睡魔
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著者: |
梁 石日 |
出版社: |
幻冬舎 |
評価: |
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カテゴリ: |
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コメント: |
映画「月はどっちにでている」の原作者,梁石日(ヤン・ソギル)のマルチ商法小説。主人公の趙奉三は大阪で事業に失敗,東京に逃げて来てタクシーの運転手をし
ていたが,交通事故で続けられなくなり失業。自分の体験を元に小説を出版するも思うようには売れず,悪友の誘いに乗って健康マットのマルチ商法に突っ込んで行く
。 <BR>
この健康マットのセールス・トークには大笑いする。いわく,大気中にはニンゲンの健康にいい「磁気」が一定量ある。これがなければ生物は生きていけない。なぜ
かというと赤血球にはプラスとマイナスがあり,互いに反発することで血液の流れが促進されているからである。ところが現代人は磁気を発している土をアスファルト
で覆ってしまい,この磁気を吸収できない。この健康マットは表面の突起の下に強力な磁石を多数縫い込んであって不足しがちな磁気を補給できるスグレものである…
…あんた,アスファルトやコンクリートで磁気が遮られるなら,例えばオレの部屋でコンパスが北を指すのは何故ですか (笑) 。しかし,このマルチの会社「ジャパン
・エース」(もちろん架空の会社である) が二泊三日で行う研修会に参加したみなさんは欲と二人連れだ,この説明をすんなりと受け入れてしまうのである。実際,ああ
ニンゲンというのはこのように洗脳されてしまうのか,うぬぬ,この雰囲気の中に叩き込まれたらオレも危ないかもなと思うくらい,この研修会のシーンはスゴい。小
説としても面白いが,今後の人生こういうモンに騙されないための参考書としても有用な一冊と言えよう,新社会人とかのヒトに是非ともオススメしたいっす。 |
関連本棚: |
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トンデモ科学の見破りかた -もしかしたら本当かもしれない9つの奇説
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著者: |
ロバート・アーリック |
出版社: |
草思社 |
評価: |
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カテゴリ: |
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コメント: |
いやこれは面白かった。え,また霊感商法なんかのトンデモ話をバカにする類いの本かって? そーぢゃない。そーゆーのは「トンデモ話」かも知れないが「トンデモ
科学」とは言えません。この本で取り上げられている諸説は,そーゆー「ヒトを騙してツボを売りつけよう」みたいな市井の詐欺師ではなくて,一応ちゃんとした学者
が大真面目に論文とかを書いているシロモノなのよ。<BR>
俎上に載せられた諸説は以下の9つ。「銃を普及させれば犯罪率は低下する」「エイズの原因はHIVぢゃない」「紫外線はからだにいいことの方が多い」「放射線も微
量なら浴びた方がいい」「太陽系には遠くにもう1つ太陽がある」「石油や天然ガスは生物起源ではない」「未来へも過去へも時間旅行は可能」「光より速い粒子『タキ
オン』は存在する」「『宇宙の始まりはビッグバン』つうのは嘘」……。<BR>
物理学者でもある著者はこれら一つ一つについてまずは丁寧に解説し,問題点を挙げ,検証方法を検討し,最後に「私見」としての「トンデモ度」を判定する。SFや
科学に全く縁のないヒトには辛い部分もあるかも知れないが,キチンと読み通せば目からウロコの2枚や3枚チャリンチャリンと落ちること必定の良書である。ちなみに
上の9つのウチ,著者がトンデモ度ゼロ(本当であってもおかしくはない)と判定したのは3つ,どれがそうかは読んでのお楽しみ。 |
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「パチンコ依存症」からの脱却―パチンコへの誤解と恐ろしい病にあなたは蝕まれている!
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著者: |
伊藤 耕源 |
出版社: |
すばる舎 |
評価: |
★★★★ |
カテゴリ: |
社会
病理
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コメント: |
この本は,「パチンコを辞められない」というのもアルコールやタバコ・薬物等の依存症と同様病気であるという前提のもとに,まず「パチンコを確率論的に論じ,『勝てる』という幻想を正し」,次に「パチンカーの心理を理解し,ギャンブルと人生の関わりを再考させ」,最後に「依存症から脱却するための具体的なプログラムを呈示する」ものである。内容は大真面目だか説教臭くはない。読んだヒトがパチンコを辞める気になるかどうかは分からないが,少なくともアホな幻想からは解放されるのではなかろうか。<BR>
あ,そうそうそれを書いておかねばな。オレ自身はもう8,9年前,「ハネモノ」が消え「CR機」というのがお目見えしたころにパチンコはやめてしまった。本書によればお客のほとんどが「パチンコはギャンブルだ」と認識しているそうだが,オレはそう思えなくなったのでやめたのである。ギャンブルっつうのはもう少し勝てる確率が高いものを言うんだってば。オレの考えではあれはまさしく「遊技」であって,「遊技料」を払ってチンチンジャラジャラさせてもらうだけのものになっちまったのだ。<BR>
ではやめたワタシがなんでこんな本を買ったかというと,ひょんなことからこの本を紹介したウェブページを見つけて興味を持ったからなのね。この本では1998年7月に,日本テレビが制作・放送した「実録180日・見たぞ驚異のパチプロ軍団」という番組を「パチンコには勝てる方法があるという誤解を助長するヤラセ番組」として糾弾しているのだが,ウェブページには作者が日本テレビに内部調査を要求した,その後日談が掲載されているんである。いやいや,日本テレビはもっと真摯な態度で応えて欲しいもんである。こんな番組作ってる局の番組で「パチンコ屋の駐車場で子供が熱射病」つうニュースに眉を顰めて見せるなんて,偽善もいいとこやないですかサクライさん。 |
関連本棚: |
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『西遊記』の神話学―孫悟空の謎 (中公新書)
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著者: |
入谷 仙介 |
出版社: |
中央公論社 |
評価: |
★★★★☆ |
カテゴリ: |
文化人類学
中国
神話学
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コメント: |
「西遊記」,オレはこの猿を主人公にした荒唐無稽な冒険談が子供の時から大好きで,4,5歳のころ木馬座に「そんごくう」の着ぐるみ劇を観に行ったのを皮切りに,手塚治虫や諸星大二郎,そしてもちろん寺田克也の西遊記ネタ漫画 (「大猿王」の2はまだかぁ?) から,村上知行による翻訳,中野美代子や太田辰夫などの研究書までおよそ孫悟空ネタには目がないオトコなのである。とは言っても西遊記関連本の専門書店なんてモノはないし,新聞に広告がバンと出るようなジャンルでもないので,1998年に発行されたこの本を購入したのは昨年の終わり頃のことだったんである。<BR>
中身はと言えば,オレと同じようにガキのころから孫悟空が好きだったという中国文学者の入谷センセイが,「西遊記」全編のテーマを世界各地の古代神話に見られる「死と再生」説話の集大成として捕らえ,比較文化論的な考察を加えたモノ。古事記のスサノウノミコトに孫悟空を重ねて見るあたり,細部にはいささかコジツケめいて感じられる部分もないではないものの,たいへん面白く読めました。<BR>
特に玉帝,観音菩薩,釈迦如来などのいわゆる「神仏」のメンメン相互の関係を明白に図式化してくれたのと,それからオレが子供のころから「西遊記における論理的欠陥」と感じていた「孫悟空が水が苦手である」という設定に関してちゃんと考察してくれたのとはたいへんウレシクなってしまった。そうなのだ,玉帝と釈迦はどっちが偉いのか,治めている土地が違うのかチカラ関係がさっぱりわからないし,滝に飛び込んで水簾洞を発見したサルがなんで水が苦手なんやねん,八戒の見せ場を作ってやるために話を枉げてないか,と思っていたのだ。とにかく西遊記ファンのヒトはご一読を。 |
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ラダガスト
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かがやく日本語の悪態 (新潮文庫)
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著者: |
川崎 洋 |
出版社: |
新潮社 |
評価: |
★★★★☆ |
カテゴリ: |
俗語
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コメント: |
悪態……悪態って分かるよね? 阿呆とか馬鹿とか間抜けとか,ボケ,尻青,たわけ,おたんこなす,デレ助,オカチメンコ,逆ボタル,脳足りん,すっとこどっこい,唐変木,スカタン,田子作,ウスラトンカチ,ウンコたれ,お前の母ちゃんデーベソと……つまりは口げんかで使う罵り言葉である。<br>
この本は詩人にして日本語の研究者でもある著者が,落語や色里言葉,方言など各方面から取材して集めた,実際に使われている(いた)日本語の悪態の集大成である。なるほどこうしてまとめられた古今東西の悪態を並べてみると,巻頭で著者が嘆いておられる通り,最近の流行の悪態は語呂合わせや短縮形が多くてあんまり芸がない。口げんかで互いにストレスを発散できず,内に溜め込んである日ナイフを振り回すって世相はちゃんと言葉にも影響しているのだなぁと。<BR>
ま,正面切って「次世代に語り伝えよう戦争体験」みたいなわけにはいかぬにしても,「宇治むら」なんてオツな作りの隠語は知っていると楽しいし,「酢豆腐」とか「権九郎」みたいに裏に一個の物語を背負った言葉は知ってるだけでそれ日本文化への造詣ということになるわけだしね……。<BR>
ところで一個だけこの本に異論。124ページに出て来る「男はつらいよ〜寅次郎紅の花」のリリー(浅丘ルリ子)の悪態「口ほどにもない臆病者で,つっころばしでぐにゃちんで,とんちきいのオタンコナスだってんだよ」の中の「ぐにゃちん」は「山田洋次監督の造語なのかぐにゃぐにゃしたオタンチンという語感を覚えます」なんてもんぢゃなくて,単なる★◎♪▼♂だと思いますけど(笑)。 |
関連本棚: |
stonechild
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闘蟋―中国のコオロギ文化 (あじあブックス)
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著者: |
瀬川 千秋 |
出版社: |
大修館書店 |
評価: |
★★★★ |
カテゴリ: |
道楽
文化
中国
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コメント: |
日本にもある闘鶏や闘犬さながらにオスのコオロギを闘わせる,そういう遊びが中国にあるというのはなんかで読んで知っていた。が,これほど深いもんとは思わなかった。深いだけでなく歴史も古い。唐代玄宗皇帝のころというから8世紀の初頭には既にコオロギを闘わせる遊びが流行し,都の金持ち達はこれに莫大な金を賭けていたらしい。うーん,唐ですか。<BR>
と,オレだけ勝手に感心していても始まらないのでまずは競技のあらましを紹介しよう。例えば10人,虫主(虫の飼い主のこと)が集まって闘蟋を開催するとすると,皆それぞれ10個あまりの素焼きの壷(養盆という)を持って現れる。1つの養盆に1匹のコオロギが入っており,内部の調度は鈴房(ベッド)に水皿に飯板,ほとんど後楽園ホールのボクサーの控え室という風情である。<BR>
試合に先立って厳密な体重測定が行われるのもボクシングと同じだ。闘蟋は基本的に体重の同じムシ同士で闘われる。自分の戦士の計量が終わった虫主たちは,彼等(思わず擬人化する)の戦意を高めるため,それぞれ自分が効果ありと信じる「最終調整」を行う。ある者はコオロギを熱気から護るために養盆ごと廊下に持ち出し,ある者は養盆にメスを入れて交尾をさせる,虫を手のひらに入れて振る者,養盆の蓋をわずかに持ち上げて息を吹き込む者いろいろだ。<BR>
やがて試合が始まる。闘盆と呼ばれる浅手の鉢(最近は観やすいようにアクリルの透明なものが主流なんだそうだ)の中央に仕切りが置かれ,それを挟んだ両側に戦士が1匹ずつ放される。茜草と呼ばれる細筆のような道具の先で彼等をつついて挑発し(これはつまり相手の触覚が体に触れたと思わせてコオロギの縄張り意識を刺激するわけだ),双方牙を剥いたところで仕切りを取り外す……。<BR>
とにかく全ての局面においてノウハウ,ウンチク限りのない趣味である。やれ養盆を焼く土はドコに限るとか,晩秋には水皿をそれまでの5mmほどの深さのものから3mmのものに変えないといけないだとか,茜草には生きているネズミのヒゲを引っこ抜いて使うべきだいやオヒシバ(イネ科の1年草)の茎の繊維にエノコログサの細い茎を芯として挿し入れそれを蒸したあとで日に干してハエの頭の血を少しつけたものこそ霊験あらたかだとか,どんなメスがヤマノウチカズトヨの妻となって内助の功を発揮するかだとかどんなメスが強力無双の戦士をスポイルしてしまうかだとか,これでもかこれでもかと中国人は際限なく探求記録しちゃう。とにかくひとたびこれを読めば,コオロギを飼ってみたくてウズウスすること必定である。お金があって戦争が終わって例の肺炎騒ぎがおさまれば今年の秋には上海の虫市に行きたい! |
関連本棚: |
サントリー学芸賞
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DUTY(デューティ)―わが父、そして原爆を落とした男の物語
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著者: |
ボブ グリーン |
出版社: |
光文社 |
評価: |
★★★★☆ |
カテゴリ: |
歴史
ドキュメント
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コメント: |
「マイケル・ジョーダン物語」で日本でも名前を知られているシカゴ・トリビューン紙のコラムニスト,ボブ・グリーンによるドキュメンタリー。落とされた側の国のヒトとして,また今アメリカがやってる戦争は暴挙だと思っているヒトとして,軽々にこの本を「良かった,感動した」とは言いにくいんだが,良かったし感動してしまった。 <BR>
彼の父親は第二次世界大戦に従軍し,主にヨーロッパで戦った。ドイツが降伏し,次の作戦,日本上陸のため船でインド洋を渡っている時,広島,長崎に原爆が落とされ,日本が降伏,おかげで若きボブ・グリーン・シニアはもう人殺そしてそのことを,原爆を落とし戦争を終わらせたB29「エノラ・ゲイ」の乗員達に感謝していた,というのである。グリーンは,父が遺した回想のテープと,20年間追い続けてようやくインタビューに応じてくれた「エノラ・ゲイ」の機長,ポール・ティベッツの言葉を重ねあわせつつ,「父達の世代」の心情をさぐっていく。 <BR>
本の終わり近く,グリーンはティベッツに「最後に泣いたのはいつですか」と訊く。エノラ・ゲイのパイロットは答える。「いままで一度も感情的になったり,突然泣き出したりしなかったからといって,心のなかでなにも感じていないわけではないのだ」。
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関連本棚: |
小説苦手のkan
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松山巌の仕事〈2〉手の孤独、手の力 (松山巖の仕事 2)
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著者: |
松山 巌 |
出版社: |
中央公論新社 |
評価: |
★★★★★ |
カテゴリ: |
文芸評論
文化論
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コメント: |
どの文章をとってもながながと感想を書きたくなる本なのだが,なかでも室生犀星の「雀」という短い詩から筆を起こす「詩のなかの住まい,詩のそとの家」という一編が素晴らしい。この詩から,松山氏は今は亡き中上建次のことを思い出す。彼が生前,谷崎潤一郎の著明なエッセイ『陰翳礼讃』を評して「あれは負け惜しみだな」と言った,というのである。谷崎のこのエッセイは,日本の美の極地は陰翳の中にこそあるという主旨のモノだが,松山氏はかねてからこの論からアール・デコを連想していたので,中上の指摘に驚き感心した。<BR>
谷崎が陰翳に映えるものを良しとするのは,照明が進歩して明るくピカピカしたものが増えたからだ。そして松山氏は,アール・デコというデザインもまた,そのような感性の産物であるといい,これを日本の伝統的な美というのは退廃が過ぎるのではないか,と考える。また,彼の見るところ,中上建次の視点はまた違い,西欧文化が移入され家屋も明るくモダンになる中で闇や陰翳をことさら採り出して礼讃する態度に,時代の進歩について行けぬ老人谷崎の「負け惜しみ」を感じたのだろうという。<BR>
そして話は室生犀星に戻ってくる。ここには負け惜しみはない。退廃的な美もない。ここにこそ「日本の美」はあるのではないか,としめくくる。「雀」に続いて同じ詩集『日本美論』から,「隣史」,それに「傾く家」が引用されている。この「傾く家」には鳥肌が立つぞ。日本を紹介するガイドブックに載るようないわゆる「日本の美」を詩人は歌っていない。そういうものではなく,これを「日本の美」と捉えた犀星を私は日本人として誇らしく思う。<BR> |
関連本棚: |
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悩み多きペニスの生涯と仕事
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著者: |
ボー コールサート |
出版社: |
草思社 |
評価: |
★★★★ |
カテゴリ: |
性
医学
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コメント: |
ずいぶん昔の話だが,梶原一騎・川崎のぼるの「巨人の星」コンビに「男の条件」というマイナーな漫画があって,その中で紙芝居描きの主人公が,縄張り荒らしの落し前をつけるため,ヤクザの親分 (というのがそういえば可愛らしい女子高校生なのだ,「セーラー服と機関銃」を先取りしてましたな) の弟を「紙芝居で感動させなければならない」ハメになるんである。<BR>
この弟というのが,である。なんつうか女子高生にして女親分を立派につとめる姉の弟のくせに,皮肉屋のガリ勉 (死語?) 野郎で,ハナから紙芝居など馬鹿にしている。まっとうな方法では「感動」させることは不可能だ。そこで主人公とその師匠 (だいたいこの主人公は漫画家になりたいわけでもなかったくせにこの師匠の男気に惚れて仕事をやめ,紙芝居屋をやってるんだが) は一計を案じ,この弟のコンプレックスをこれでもかこれでもかえぐり出すような内容にする。<BR>
これを観て弟は激高し,子分どもに主人公達を痛めつけるよう指示するが,組の重鎮である「人斬り政」(だったと思う) に「坊ちゃん,コンプレックスを突かれて怒るのも感動には違いありやせん」とか言われて,その場に泣き伏す…という,いかにも梶原的理屈っぽさ漂う展開 (「人斬り政」ってインテリぢゃん) になる,と。<BR>
やれやれ,長い前置きであったけれども,ボー・コールサート著「悩み多きペニスの生涯と仕事」を読み終え,私もこの「男の条件」のヤクザの坊ちゃん的「感動」をしたんである。文章によって感情を揺さぶられ,それどころかありもせぬ痛みまで感じてしまった。なんつうか,男なら誰でもそうだと思うのだが,例えば下の「陰茎折症」の描写なんかどんなに即物的に書かれていても平静な気持ちでは読めない,と思うのだ。</p>
<Blockquote>
ペニスの海綿体は堅い壁を持っている。これが激しい興奮のときには強度の緊張状態に置かれる。誤った動作をすると,海綿体が棒のように曲ったり折れたりすることだってあるのだ。こうなると,海綿体組織の壁が切れ,血液が高圧で組織の中に流れ込む。この出血が,猛々しく鋭敏な愛の絵筆 (「愛の絵筆」というのはこの本の原題でもある) をほんの短時間で変色させる。腫れあがり,無力で,痛いだけの器官に変えてしまうんだ。すぐに病院に受け入れてもらう必要があるね。
</Blockquote></p>
実はこの本を私は「題名買い」(題名だけ見て面白そうだ,と購入すること) したのだが, 松浦理英子の「親指Pの修業時代」みたいな小説かと思ったのだ。そしたら泌尿器科の専門医による,なんつうかペニスとセックスに関する医療相談みたいな本だった。で,上のような記述がバンバン出て来るのである。いやぁ,なんか股間が (性的興奮とは別の意味で) ムズムズして来ませんか。それはあなたも「感動」してるんですよ(笑)。 |
関連本棚: |
coup
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夢の科学―そのとき脳は何をしているのか? (ブルーバックス)
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著者: |
アラン・ホブソン |
出版社: |
講談社 |
評価: |
★★★★☆ |
カテゴリ: |
明晰夢
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コメント: |
…今はムカシ,懐かしい「MacLIFE」に連載を持っていた頃,サヴァン症候群の人たちのことを書いた「なぜかれらは天才的能力を示すのか」( ダロルド・A・トレッファート著)の中に「ハリモグラにはレム睡眠がない」とあるのを読み,コラムで「もしかしたら夢というのはフロイトが言うようなモンではなく,単に脳味噌が記憶をガベージ・コレクトしているのを『意識』がかいま見ちゃってるだけのもんぢゃないのか」と論じたことがある。書いてる方が「こりゃ大発見」とコーフンしたわりには読者からの反応もなく,そのうちすっかり忘れ果てていたのだが,この本を読むとオレの考えはあれで結構いいセンを行っていたんですよ,奥さん。<BR>
筆者によればフロイトの時代に比べて画期的に進歩した脳の基礎研究やさまざまな測定器具の実現により,ヒトが夢をみている時の脳の状態をリアルタイムで見られるようになった結果,夢の研究は長足の進歩を遂げ,いまや「空を飛ぶ夢をみるのは性的欲求不満があるからだ」式のフロイト的夢判断は科学的にほぼ否定されているのだそうな。では脳のどんな活動がヒトに夢をみさせるのか,そもそも夢をみるとはどんな意味があるのか。意図的に明晰夢(自分がいま夢をみていると自覚しながらみる夢)を見る方法とは……などに興味があれば是非ご一読を。今夜から眠るのが楽しみになるかも。 |
関連本棚: |
すがる
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ダーウィンの使者〈上〉 (ヴィレッジブックス)
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著者: |
グレッグ ベア |
出版社: |
ソニーマガジンズ |
評価: |
★★★★ |
カテゴリ: |
アメリカ
小説
SF
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コメント: |
なんつうのかね,昔はハードSFって言ったら物理学の世界だったのだが,昨今のハードSFは生物学なんだな。オレもそれなりに例えばスティーブン・ジェイ・グールドの本とかを読んだり,ディスカバリー・チャンネルを観たりしてその方面に関して世間の平均以上の知識を持っているツモリだったのだが,「ヒト・ゲノムに数十万年前から潜んでいたレトロウィルスが現代社会のストレスを引き金に活性化して非連続的進化を引き起こすその方法」の解説なんてのは読んでてもさっぱり判らないよ(笑)。<BR>
しかしそれなりに面白く,特に後半,主人公の女性生物学者が自らミュータントを妊娠することを決心してからのダッシュな展開はマイケル・クライトンばりに読ませる。…ま,こういう言い方をするということはつまり前半は結構タイクツなトコもあったということなんだがね。事実を記録したドキュメンタリではなく小説なんだから,フォーカスを絞ることも必要だろう。はっきり言えば前半には無用な,物語的にいなくても大差ないくせに名前を与えられてる登場人物が多い気がする。それからラストで出て来るミュータントの幼児の容貌の描写がイマイチ像を結ばないのもマイナス要因である。顔に「まだら」があっても,文字で「可愛い」って書いてあればああ可愛いのだな,と読んでるヤツは納得するだろうが,それぢゃきっと映画化の話は来ないよ。ペイントの剥げかけたグレート・ムタは可愛くない。 |
関連本棚: |
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吸血コウモリは恩を忘れない―動物の協力行動から人が学べること
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著者: |
リー ドガトキン |
出版社: |
草思社 |
評価: |
★★★★ |
カテゴリ: |
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コメント: |
くだけた邦題(まぁ原題も「Cheating Monkeys and Citizen Bees」でカタイわけぢゃないが)ながらなかなかタメになる進化生物学の解説書である。動物の協力行動というのは,例えば邦題になっている吸血コウモリの,飢えた仲間に自分の吸って来た血を吐き出して与える行動のこと。<BR>
もちろん動物たちが「良心」にしたがってそんなことをしているわけはないので,つまり現実にそうした行動が観察できるということは,そうした行動をとることが今までの自然淘汰の過程でその動物に有利に働いた結果であるといえる。では彼らはどんなメカニズムにしたがってそうした,個体にとっては「損」にみえるような行動を取るのだろうか……てな話を豊富な実例を挙げながら展開するわけだ。<BR>
なかでも興味深かったのは群内淘汰と群間淘汰の関係。小川に住むグッピーは一定規模の群れを作って行動する。捕食者らしい生物の気配を感じると,物陰に逃れる他の仲間から離れて敵の方に向かい敵を「偵察」し,得た情報を仲間に「報告」する数匹の個体がいるという。もちろんこの行為は偵察する本人(本魚?)にとって大変危険なものであり,群れの他のメンバーに比べて彼の生き延びられる確率は少ない(群内淘汰)。ではそんな行動を取る個体が一匹もいない群れの方が生き延びる確率が高いか? ちょっと考えればわかるがそんなことはない。そういう群れはあっという間に捕食者に喰い尽くされてしまうのである(群間淘汰)。ね,面白いでしょ?<BR>
例えばここに「ビジネス」というものがある。金儲け至上主義のヒトに言わせればこの世は弱肉強食である,と。つまりこれは協力行動を拒否,あるいはズルして群内淘汰における有利を得ればいいという考え方である。しかし国内にそういう考え方が蔓延し貧富の差が激しくなると国力が衰える。なので,群内協力がちゃんと出来ている(ように見えるだけだったが)共産主義陣営健在なりし頃はアメリカン・キャピタリズムもそう無茶はしなかった。が,冷戦終結グローバル化で今や地球全体が「群内」になったので,ヒトを協力行動に追い立てる圧力が雲散しようとしてるわけだ。……別に敵対する他の群がなくても淘汰される可能性はあるんだが,分かんないヒトが多いんだよな。 |
関連本棚: |
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アコーディオンの罪 (ACCORDION CRIMES)
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著者: |
E・アニー・プルー |
出版社: |
集英社 |
評価: |
★★★★ |
カテゴリ: |
アメリカ
小説
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コメント: |
時間はかかったけどこの本を読むのは愉しかった。なんてのかな,「ストーリーを追うヨロコビ」ではなくて,もっと純粋な「文章を読むヨロコビ」を感じさせてくれる本,映画よりも音楽に近いタイプの本である。たまにはこういう本を読むのもいい。仕事で切れ切れではなくてまとまった休暇とかを取っていっぺんに読めると最高なんだがな。<BR>
ストーリーを紹介するのは難しい。簡単に言えば,約100年前,イタリア移民のアコーディオン職人が持っていた「小さな緑色のボタン式アコーディオン」が,約100年後にミネソタからミシシッピへ向かうハイウエイ沿いで破壊され,その場にいた貧しい人たちにちょっとした人生の転機をもたらすまでの,なんつうか「アコーディオン・オデッセイ」である。もちろんアコーディオンに手足が生えて……なんて文福茶釜みたいな話ではないので,次々と替わるその持ち主たちがその場その場での「主人公」になる。<BR>
モノが楽器なので当然ながら音楽がからむ。イタリア系に始まってドイツ系,メキシコ系,フランス系,アフリカ系,ポーランド系,アイルランド系,ノルウエー系と移民達の手を渡り歩きながらそれぞれの音楽を奏でたり奏でてもらえなかったりする。…そだな,1999年だったか,「ラン・ローラ・ラン」ってドイツの映画があったではないか。あの中で主人公のローラとすれ違う人々のその後の人生がラッシュで垣間見られるところがあったでしょ。この本はあのローラのポジションにアコーディオンを置いた,ある意味アメリカの年代記とでも呼ぶべきもんなのだ。誰にでも薦められるわけぢゃないが,オレは面白く読みました。 |
関連本棚: |
stonechild
kitashi
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話の後始末
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著者: |
立川 志の輔, 天野 祐吉 |
出版社: |
マドラ出版 |
評価: |
★★★★ |
カテゴリ: |
対談
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コメント: |
立川志の輔・天野祐吉の……なんというかまず志の輔師匠の落語があって,そのあとでその落語についてだったりそうぢゃなかったりする四方山話を天野さんとする,というライブ数本を収録した変わり種の対談集 (つうコトになるんだろうな,これも) 。……オレ,経験があるから言うけどテープ起こししたヒトは大変だったろうなぁ。<BR>
落語は「だくだく」,「粗忽長屋」,「バールのようなもの」,「文七元結」,「井戸の茶碗」の5本。「バールのようなもの」だけが新作であとは古典,なのでまぁ「バールのようなもの」以外はオレも実際に寄席やテレビやラジオで聞いたり興津要先生の本とかで読んで知ってる話なんである。が,なにを隠そう志の輔師匠の落語は聞いたことがないのでなかなかにこういう口述本は興味深い。ああ寄席に行きたくなるなぁ。<BR>
それはさておき,「だくだく」(知らないヒトのために解説するとこれは,貧乏なので壁に家財道具の絵を描いてモノがあるつもりになって暮らしているオトコのところに洒落の分かる泥棒が入ってたがいに「つもり合戦」をやるという話である) のあとの対談。天野さんの「東京の水不足の時にコメンテータとしてテレビに出て,『東京の人間はみんなわがままで,水なんてあって当たり前だと思ってる。だから懲らしめるためにしばらく雨は降らなくていい』と発言したら抗議の電話がいっぱい来た」という話が身につまされた。<BR>
天野さんによれば「病院はどーするんだ!」とか,そういう怒りの電話が来たんだそうで,そーゆー話をしてるんではないっちゅうのね。オレも以前ほぼそっくりの目にあったことがあるけど,いちいち病院のことまで考えて冗談言えない,冗談と言って悪ければ違った視点は提示できない。テレビにしたって「一刻も早く雨が降るといいですねぇ」みたいな思考停止のコメントを言わせるために天野さんにギャラ払ってんぢゃないだろうに,こういう抗議にウロタエるなよな,と思うのだがねぇ。<BR> |
関連本棚: |
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賭博と掏摸の研究
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著者: |
尾佐竹 猛, 加太 こうじ, 藤田 幸男 |
出版社: |
新泉社 |
評価: |
★★★★ |
カテゴリ: |
歴史
犯罪
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コメント: |
著者の尾佐竹先生は司法官で大審院判事まで務め,「日本憲政史」とか「明治文化史としての日本陪審史」などの著作もあるなんというか大学者なんだが,肩書きのわりに,というか反してというべきか,そうとうくだけたヒトだったらしく,この本も文語体でありながら慣れるとスイスイと読める面白さなんである (ただし注釈無しに引用されている古文書,漢文の類いは除くが) 。<BR>
賭博の研究においては,日本でおこなわれる賭博をサイコロ系とカルタ系に分類,そのルーツが実は一つであることを解き明かし,返す刀でサイコロ賭博の種類と方法を克明に記して行く。一個でチョボイチ,二個でチョウハン,三個でキツネ,四個でチイッパ,五個がテンサイというぐあい。次にはイカサマの手口,昔の時代劇でしか観たことがなかったが,ほんまに中から針が出て来てひっかかり,出目を左右できるサイコロとかがあったんである (センセイ,明治期にそれを売っていた店の新聞広告を引用している〜これを全文ここに書き写せないのが残念だ)。<BR>
続くは掏摸,まず掏摸の技術がこれほど発展したのは日本だけであり,斯様に小手先が器用なのは幼時から箸を使ってものを食うせいだという (そのわりに「支那人に掏摸の才能なし」と断じているのがヘンなんだが) 。その上で日本が誇る (実際誇っているように読めるのがおかしいんだが) 掏摸の技術,手口について詳細を記し,江戸時代の稲葉小僧などら明治に名高い仕立て屋銀次の捕縛と判決までを解説する。<BR>
目ウロコ話が山ほどある,詐欺賭博の類いのことを関東ではイカサマと呼んだが関西ではインチキと言う,同じ掏摸と言う字をスリと読むのは関東の語で,関西ではチボと読んだ,コートに鈴を下げてそれを鳴らさずにスり取れるように修行するというのはウソだ,修行は全部実習である (オレなど子供の頃にちばてつやの漫画で読んで信じていたのだがなぁ) ,なりたての掏摸はモノを取ったらすぐに駆け出す,なので「駆け出し」という等々,目からウロコが落ちる音が半径450mくらいに響き渡った。 |
関連本棚: |
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大本営発表は生きている (光文社新書)
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著者: |
保阪 正康 |
出版社: |
光文社 |
評価: |
★★★★ |
カテゴリ: |
歴史
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コメント: |
昭和16年12月8日から昭和20年9月2日の降伏文書への調印まで,45ヶ月間にわたる太平洋戦争の間,実に846回行なわれた「大本営発表」。現在ではその印象が一人歩きし,単に信用できない官製報道,建前と嘘で固めた不実なニュースという意味合いで使われることが多い。本書はその全貌を丹念に掘り起こし,選り分け,当時の軍関係者がなぜ客観的事実から目をそらせ事実を隠蔽しようとしたか,彼らがその先に(事実はいずれ明らかになる)どんな終末を心描いていたのかを明らかにしようという労作である。<BR>
いささか乱暴に,しかもいかにもオレ風に要約すると,(1)米英相手に戦争をやっても勝ち目はないという意見を押し切って戦争を始めた。(2)なので個々の戦闘でも「負けた」という報告はしにくく嘘をつくことになった。(3)勝った勝ったと報告しているのに実際には負けているわけだからどんどん現実と報告との乖離は大きくなった。(4)嘘がバレるの怖さに一億総玉砕を唱えて国民と無理心中を図った,ということになる。いや,帝国軍人はそんな卑怯者ではない,というご意見はあろうし,保坂さんもオレよりは同情的で「それは戦争というシステムを理解できなかった悲しい報告書だった」と論じているんだが……。<BR>
まぁ昨今なにやら元気になってきた感のある「日本は偉いぞもいちど戦争するぞ」派の勇ましくて少し足りない市民の皆さんには是非とも読んでいただきたい本である。<BR> |
関連本棚: |
あおしま
tmiura
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2001年映画の旅―ぼくが選んだ20世紀洋画・邦画ベスト200
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著者: |
小林 信彦 |
出版社: |
文藝春秋 |
評価: |
★★★★ |
カテゴリ: |
評論
映画
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コメント: |
うー,楽しい本である。まずなんといってもカヴァー絵がいい。これ,黒澤明監督の「野良犬」での三船敏郎と志村喬である。白いスーツにハンチング,という格好が馬鹿みたいでなかった時代のかっこいいミフネだ,あんた (と偉そうに書くがオレも劇場で観たわけではない,封切りの時は産まれてないしな) 。<BR>
この本は2部構成になっている。前半は小林さんの選ぶ20世紀の洋画,邦画のベスト100という企画読み物。後半はいろいろなところに断片的に書かれた映画に関わるエッセイを集めたものである。本文中にもあるが彼はある時期で映画評論を書くのを辞めており,ここに納められのは評論ではなくあくまで映画にまつわるエッセイである,らしい。そういう風に厳密な分け方をする小林さんがオレは好きだが全然真似しようとは思わない。世代の差かも知れぬ。<BR>
ともかく選ばれた洋画100本のウチ,オレが観ているのはたったの15本,邦画に至っては10本に満たない。まぁどっかの偉いさんが選んだ「ニッポンの百名山」とかいうのを踏破してナニかを成し遂げた気になる,という類いのメンタリティはさらさらないのでそう残念でもないのだが,小林さんの紹介文を読むと観たくなるなぁ。<BR> |
関連本棚: |
増井
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BH85
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著者: |
森 青花 |
出版社: |
新潮社 |
評価: |
★★★★ |
カテゴリ: |
日本
ユーモア
小説
ファンタジー
SF
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コメント: |
著者のモリさんとはお知り合い。京都…大阪だっけ? 在住の主婦兼鬼のようなプロレスファンのヒトであり,東京に観戦に来た時などには新宿で飲んだりしたもんなのだ。この本はそんなモリさんが,1999年に日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞した作品。<BR>
元々は「究極の毛生え薬」であった遺伝子組替え生物 BH85 がひょんなことから突然変異して大増殖,京都府鳥羽下水処理場を皮切りに,生きとし生けるもののあらかたをその一部としながら遂には地球を覆い尽す,というパニック小説…なんだろうなぁ。早い話 (ちっとも早くないか) ,諸星大二郎のデビュー作「生物都市」の毛生え薬版である。<BR>
この新生物,ネオネモに生物が融合し,その意識が共有されるトコロの描写がすばらしい。あ,ワシも融合したい,とか思ってしまうもんね。至る所暗緑色の新生物に覆われた町の風景なんかは水木しげるの「原始さん」を彷佛とさせる。いや面白うございました。吾妻ひでおの挿し絵も吉。 |
関連本棚: |
mnpk
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ファストフードが世界を食いつくす
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著者: |
エリック シュローサー |
出版社: |
草思社 |
評価: |
★★★★☆ |
カテゴリ: |
アメリカ
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コメント: |
まず本から離れたところから筆を起こす。2001年10月3日の毎日新聞「記者の目」というカコミ記事に論説室の高畑昭男という記者が「タリバンも米国も悪か? 『どっちも』論こそ危険だ」と題して,「テロは『絶対悪』なんだから今こそ米国に協力してこれと戦わねばならない,テロとの戦いは『絶対に必要』なことだ」という好戦論を書いていた。<BR>
オレとてテロリストの側につき彼等の行動を支持するわけではない,ないが,この記者に逆に聞きたい。世界中が協力して「テロ支援国家アフガニスタン」を攻撃し,再度の報復テロなどできぬよう,一族郎党皆殺しにしたとしよう (オレはそうしてもテロはなくならないと思うが,「テロ」の主たる母体が「憎悪」である以上,皆殺しはこの記者などのいう「根絶」の最低条件だろ? 殺したいんだろ?) 。そしてどんな世界がやってくるのだ? <BR>
さぁ,米国を攻撃するテロリストはいなくなった,世界各国は今さらながら「世界最強」を誇る米軍の力を見せつけられた。そのあとで,例えばこの日本はブッシュに「京都議定書の批准」を要求できるのか? 核実験全面禁止条約 (CTBT) を反故にしてる,と批判できるのか。世界中どこの国が米国の首に鈴をつけられる? この戦争で勝利の味を覚えた米国民はきっと言うぞ,「なにジャップがアメリカの政策に反対してやがるだと,そんなヤツはテロリストと同じだ,かまうこたぁないからやっつけちまえ」。<BR>
米国にはそんなことをしない良識がある? あるかどうかがこの本に書かれている。あの国の象徴とも言えるファストフード産業が,他国民どころか自分の国の将来をになう子供らまでを,いかに食い物にして肥え太って来たか。そして歴代共和党政権が,特にレーガン・ブッシュ政権がいかにそれに手を貸して来たか,が全部書かれている。<BR>
テロリストは犯罪者として裁かれ罰せられるべきだ。今回の米国のやり方には賛成できない。なぜなら,米国以外の国がテロに遭った時に同じことができないやり方,アメリカにしか出来ないやり方でテロと戦おうと言ってるからだ。圧倒的な暴力をバックに,やんわりと協力を強制する。こう言っちゃなんだが,それはヤクザのやりクチだ。都合のいい時だけ「自由主義社会の盟主」になって権力を行使し,別の時には他国の苦境を顧みない。<BR>
石油などの化石燃料を使いたいだけ使い,世界中の二酸化炭素の約1/4を一国で排出するアメリカは,例えば地球温暖化による海面上昇が死活問題であるいくつかの国の苦しみには鼻もひっかけない。「自国の産業に悪影響があるから」京都議定書は批准しない,と言い切ったではないか。あんなことは米国にしか言えない。もしよその国があんな態度を取ったら他ならぬ米国にこっぴどく非難されるに決まっているからだ。そういうメンタリティがどっから来るのか,それもこの本を読めば解る。必読だと思う,あなたが例えばマクドナルドが大好きであれば。 |
関連本棚: |
ichiyu
benisuzu
YOROKOBI
P2P today
*uchi_mio*^o^*v 図書館
kazuya
蝉
りょうせい
shinya
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のらねこ兵☆売っちゃった
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増井家の屋根裏
KyongSaRi
ogijun
momose
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ポップ1280
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著者: |
ジム トンプスン |
出版社: |
扶桑社 |
評価: |
★★★★☆ |
カテゴリ: |
ピカレスク
アメリカ
小説
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コメント: |
吉野朔実の「弟の家には本棚がない」で知って取り寄せた1910年代のアメリカの田舎町を舞台にした暗黒小説……。つか,こりゃアメリカ版「村井長庵」(「歌舞伎・勧善懲悪覗機関(かんぜんちょうあくのぞきからくり)の」でもいいんだけど,ここは「筒井康隆の」を思い起こしていただきたいところ)ですな。<BR>
人口1280人の田舎町ポッツヴィル,この町の保安官ニック・コーリーは間抜けの皮をかぶった極悪人である。町の売春宿に巣食うヒモ達を殺して隣の郡の保安官をその犯人に仕立て上げるわ,時期保安官選挙の対立候補を噂を武器にして追い落とすわ,愛人の亭主を銃の暴発事故に見せかけて殺すわ……。そして彼はうそぶくのだ。「オレの意志ぢゃない,オレはみんながオレに期待していることをしているだけさ」。<BR>
同じ暗黒小説と呼ばれても,エルロイや馳星周の主人公たちはもっとギラギラで欲望むき出し,人を殺すときも鼓動バクバクな感じがするんだが,この男は違う。心の底からそんなことはたいしたことぢゃないと思っている,通るのに邪魔な石をどかすような感じ。ね,村井長庵でしょ? <BR>
……ところで「弟の家には本棚がない」にはこの本をネタにジャン=ベルナール・プイというフランス人作家が「1280の魂」という本を書いた,でも翻訳はされていないという話が出てくるのだが,ワシもそれが読みたい,読みたいぞ。 |
関連本棚: |
ud@ko
あずきのリアルな
優
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未来のアトム
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著者: |
田近 伸和 |
出版社: |
アスキー |
評価: |
★★★ |
カテゴリ: |
脳科学
ロボット
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コメント: |
オビのアオリをそのまま書き写せば,「取材,執筆に丸2年! 早稲田大学,大阪大学,東京大学,経済産業省,ホンダ,ソニー,NEC……,日本のロボット開発の最新動向や現代科学の最新理論から『ヒューマノイド』の未来を探る,渾身のサイエンス・ノンフィクション!!」である。<BR>
著者の田近さんの意図としては,ヒューマノイド研究の最先端をまずルポし,それが「アトム」には遥かに遠いことを指摘。そも我々が思っているアトムのようなヒューマノイドを作るにはどのようなことがまだ明らかでないのか,そのためにどのような研究がなされているのかを紹介していく,ちょうどホーガンの「科学の終焉」みたいなテイストを目指したのだと思うのだ。<BR>
だけどなんつうのかな。ホーガンが取材対象である学者達を挑発したり怒らせたり,サイエンス・ライターとしてのある種の矜持が感じられる取材に読めるのに対し,田近さんの取材はもっと「お説拝聴」みたいな印象があって,自分を出さない匿名子の構成したインタビューみたいなんである。いや,それだけならそういう本として納得が行くんだけど ,その取材結果をまとめる段になると,ホーガンも田近さんも容赦なく「●●氏のこの見解,ワタシには納得いかない」とか書いちゃうわけ。<BR>
オレもヒトにインタビューしてそれをまとめるとか,対談をしてもらって読める記事にするとかって仕事をしたことがあって,その経験から感じるんだけど,おそらくホーガンに取材された学者よりも田近さんに取材されたヒトの方が出来た本を愉快には思わないんぢゃなかろうか。ま,本スジには関係ないところなんだけど。<BR>
前半,AI (人工知能) に関わる話はオレもかつてカジったモノなので「知ってる話」が多く,まぁ流し読みもできたんだが,後半,脳科学や物心論あたりになってくると読んでても付箋を貼りどおしである。青山拓央「タイムトラベルの哲学」やラマチャンドラン「脳のなかの幽霊」,そして上にも書いたホーガンの著作など,ここ数年のあいだに読んだ本の復習をさせられているような知的体験でありました。でもちょっとこの結論は食いたりないなぁ,オレ。<BR> |
関連本棚: |
svslab
増井
kata
earth2001y
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蕎麦屋のしきたり (生活人新書)
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著者: |
藤村 和夫 |
出版社: |
日本放送出版協会 |
評価: |
★★★★☆ |
カテゴリ: |
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コメント: |
「有楽町・更級」の4代目藤村和夫氏による,蕎麦うちのコツから出しの引き方,通し言葉や符丁から,もりと種もの,「おやど」と出前の汁の違いまで。いやぁ実に面白く読ませていただきました。<BR>
ただちょっとだけ気になったのは,本屋で見かけたポップやオビなどこの本の広告にやたら「粋だ粋だ」と書いてあること。オレ的常識ではそういうのは「粋がる」って言って,これ以上ないくらい「粋ぢゃあねぇふるまい」だったはずだと思うんだがなぁ,NHKとかのヒトはどうお考えですか。<BR>
さすがに著者の藤村氏はその辺をわきまえてらして,ある広告では「私たち蕎麦を召し上がっていただく人間からすれば,粋だの,粋でないだのと生意気は言えない」とコメントなさってた。そうですよね,普通は。まぁその上で,それが「粋かどうかは知りませんが」と断りつつ,蕎麦屋にとって嬉しいお客というのを次のように紹介してらっしゃるので引用しようか,その客というのは,<BR>
まず酒を一本取り,お品書きを吟味しながらおもむろに飲みはじめ,しかるべき時に手の掛りそうな「つまみ」を注文し,できてきたらお代わりの酒を注文,食べているうちに「蒸籠,一枚」。水を切りながらつまみつつ,「もう一本」。「板わさでもおくれヨ」。酒がなくなる頃,「蒸籠,もう一枚」。これをゆっくり食べて,湯桶を入れて,残りの汁を全部飲んでしまってから「お勘定」。どうです蕎麦屋が喜ぶ客になれそうですか? |
関連本棚: |
KT
権太の既読
ak2
hirschkalb
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女は結婚すべきではない―選択の時代の新シングル感覚
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著者: |
シンシア・S. スミス |
出版社: |
中央公論社 |
評価: |
★★★★☆ |
カテゴリ: |
結婚
女性
社会
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コメント: |
ヨワイ40を超えてヒトリモノの私がこういうタイトルの本を読んでわかったようなコメントを書いたりすると,おそらく要らぬ憶測とナミカゼを呼ぶだろう予感はある。あるのだが,いや正味のところ,たいへん面白かった。<BR>
アメリカ社会に根強く残る (と言ったら「日本のほうが」だろうが) 「結婚制度への盲目的服従」がいかに人生を,特に女性の人生を苦しくつまらないものしているか,ということを数多くの実例をあげてレポートした本。著者であるスミス氏は,長年連れ添った夫と死別したあと,周囲の人々が「あなたはまだ若いんだから,いい相手を見つけて再婚すべきよ」と勧めるのに憤慨したそうだ。その時の話が面白い。<BR>
なんで女は結婚してないといけないみたいに言われなきゃいけないのか。そう聞き返されて周りの方がたまげてしまい,いろいろな支払いや車の修理など夫たるものの「仕事」を次々とあげつらう。そんなものは自分でできると彼女が言うと最後に出てきたのが「でもゴミ出しは旦那でしょ? (アメリカでは一般にゴミを出すのは男の仕事とされているそうな) 」と言われた。彼女は答える,ゴミ出しのために再婚する?馬鹿みたい(笑)。<BR>
タイトルはトンがっているが (原題は「Why Women Shouldn't Marry」) ,けしてウィメンズ・リブや過激なフェミニズムの本ではない。つうか,ここに「失敗した結婚の例」としてあがってるいくつかの事例はアメリカと言わず日本の夫たちこそ読むべき,身につまされるトコロがある話ではなかろうかと思う。そのヘン,シングルのオレなればこそ,うけけとヒトゴトとして笑って読めたのかも知れぬがね。 |
関連本棚: |
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未知なる地底高熱生物圏―生命起源説をぬりかえる
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著者: |
トーマス ゴールド |
出版社: |
大月書店 |
評価: |
★★★★☆ |
カテゴリ: |
生物学
地学
物理学
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コメント: |
実はこの邦題はあんまり出来がよくなくて,いったい何の「生命起源説をぬりかえる」んだか分からないと思うが,これは石油,石炭,天然ガスなどのいわゆる「化石燃料」の生命起源説のこと,早い話が石油も石炭も「化石燃料」なんかぢゃあねぇ,と主張する本である。<BR>
以前読んだ「トンデモ科学の見破りかた〜もしかしたら本当かもしれない9つの奇説」(ロバート・アーリック著)のなかでとりあげられ,「トンデモ度ゼロ(本当であってもおかしくない)」と判定されていたのに興味が湧いて買ってみたのだがいやはや恐れ入りました。小学生の頃理科の授業で,石油石炭は大昔の生き物の化石が地面の下でよくわかんない変化を遂げたものと教えられて以来固陋蒙昧なる生物起源説信奉者であった不肖フジモト,前非を悔いて本日よりこっちにコロビます。そうはいうがあんたこれは「第二の地動説」かも知れないよ。<BR>
以下ゴールド先生(いきなり先生扱いである)の主張をごく大雑把に総括してみる。<BR>
生物起源説はもともと,石油などの還元燃料は二酸化炭素が還元されたものであり,地球上で二酸化炭素を還元して同化することが出来るのは葉緑素を持った植物(生物)だけだから,石油はその死骸の成れの果ての市兵衛さんに違いないという。しかしこれが正しいとすれば,光合成の能力を獲得する前の生物はどうやって自分の身体を形成していたのか,生命は発生と同時に炭素同化能力を持っていたというのか,それはちとありそうもない。<BR>
最近の研究により,太陽系の多くの惑星,衛星などがその内部に炭化水素を多量に含有していることが判明した。つまり生命のいないよその星にも石油と同じく酸素と反応して二酸化炭素とエネルギ−になる物質が存在しているわけだ。とすれば,なんで地球の炭化水素だけがそれらとは違って植物のみなさんの光合成努力の賜物であるのか。モノゴトに二種類の説明があったら単純な方がより正解に近いんぢゃなかったのか(オッカムの剃刀ですな)。<BR>
シンプルでしょ? そして先生はこの自説を証明すべく,生物起源説によれば絶対に石油なんか出るはずのないスウェーデンの原野を試掘し,商業的には採算ベースに満たないものの決して「微量」とは言えない石油と磁鉄鉱のペーストを掘り出してしまう。しかし有力な科学雑誌はこれを黙殺「受理して掲載するにはほかの研究チームによる調査結果の再現が必要」とかほざくのである。あのなぁ花崗岩の原野に深さ6キロの穴を掘るのにいくらかかると思っているのだ。この理屈は「アメリカ以外の国が月から石を持ち帰るまであれを『月の石』とは認められない」というコトだぞ。<BR>
てなわけで,いつのまにかゴールド先生の憤懣まで身に背負ってしまったワタシだが,とにかくこの本は科学好きには絶対に面白い「極私的2004年輝け面白科学本大賞」最有力候補(邦訳が出たのは2000年だけど)の一冊なので,御用とお急ぎでない方はじっくり腰を据え,この「第二の地動説」を吟味してみてくれたまえ。 |
関連本棚: |
増井
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ねじとねじ回し-この千年で最高の発明をめぐる物語
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著者: |
ヴィトルト・リプチンスキ |
出版社: |
早川書房 |
評価: |
★★★☆ |
カテゴリ: |
文化論
技術
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コメント: |
ペンシルバニア大学で建築学の教鞭をとる著者に,ニューヨーク・タイムズからミレニアムを記念するショート・エッセイの依頼が来る。テーマは「この千年で発明された最高の道具」は何か。彼は早速自らの道具箱を引っくり返して最高の道具を選ぼうとするが……。<BR>
前半は「この千年で最高の道具」探しを通して候補にあがった道具達の歴史が綴られる。これかあれかといろいろな道具について来歴を調べるのだが,ほとんどがこの千年どころか前の千年以前の発明であることに驚かされる(著者も,読者もだ)。で,結局それは「ねじ回し」であるということになり,後半,ねじ回しとそしてねじそのものの起源を遡る旅が始まる。<BR>
……と,いうわけでなかなか興味深い本なんだが,惜しむらくは読んでいるこっちの基礎知識が足りな過ぎてナニを言ってるのか分からないトコロも少なくない。例えば「☆という道具の仕組みは◎と●の組み合わせ」などと書かれていても,オレには●がどんなものなのかさっぱり見当がつかないのね。そんな日が来るかどうかは分からないが,もし歳とって日曜大工でも始めたらもう一度読もうかね。 |
関連本棚: |
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FKMy2005
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食糧棚
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著者: |
ジム クレイス |
出版社: |
白水社 |
評価: |
★★★★★ |
カテゴリ: |
小説
イギリス
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コメント: |
ジム・クレイスの短編集,いや掌編集というべきか。訳者によるあとがきによれば,著者はイタロ・カルヴィーノの「見えない都市」,プリーモ・レーヴィの「周期律」および,ある民話(そのストーリーもあとがきには紹介されているが長くなるので割愛する)にインスピレーションを得て本書を執筆したそうで,話の数はチェス盤(その民話にはチェス盤が出て来るのだ)の升目と同じ64,全ての話が食べること,食べものを主題にしている。<BR>
それぞれの話は全く独立しており,ショート・ショート風にオチのあるものあり,ないものあり,詩のように音読して楽しめる(翻訳でも)ものあり,音読以外では楽しめそうもないものあり,と実にバラエティゆたか。だがどの話もどこかに一本,クレイス波というかクレイス節というか,幸福の背骨に沿ってただひとすじ流れる冷や汗のような悪意というか無気味さみたいなものが添加されており,読み進むにつれてそのなんとも嚥下し難い余韻だけが蓄積されていく構造になっている。<BR>
読んでいる最中,「一人の男が飛行機から飛び降りる」のバリー・ユアグローを思い出したが,ユアグローの短編が(本人がそう思っているかどうかは知らないよ),無意識に潜む不条理を不条理の形のまま文章に掬い取ろうとしたものだとすれば,クレイスのこれらの掌編は食べるという行為の根源にある野蛮が,我々の文化によって隠蔽され隠蔽され隠蔽されてなお垣間見えてしまうその瞬間を文字で切り取ろうとしたものだと言えるかもしれない。遠い昔井上陽水がインタビューに応えて言っていたように「ものを食べているところをヒトに見せるもんぢゃない」のだ。 |
関連本棚: |
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脳のなかの幽霊 (角川21世紀叢書)
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著者: |
V.S. ラマチャンドラン, サンドラ ブレイクスリー |
出版社: |
角川書店 |
評価: |
★★★★☆ |
カテゴリ: |
医学
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コメント: |
事故などで切り落としてしまい実際にはない手足が痛む,という話は私も聞いたことがあった。この本はその現象,「幻肢」を皮切りに,カプグラ・シンドローム (脳に損傷を受けた人が肉親を偽者と感じる現象) ,サヴァン (映画「レインマン」でダスティン・ホフマンが演じたように社会適応能力に障害を持つ人が音楽や数学などの分野で異常な才能を示すこと) ,想像妊娠,多重人格などの現象を神経学的に検証したもの。 <BR>
面白いのは,幻肢などの不可解な現象をただ机上で取り沙汰するのではなく,それに悩む患者の臨床医として実地にその「治療」に取り組んだレポートでもあることだ。幻の手を開くことができず爪が掌に食い込む痛みに耐えかねて病院を訪れた患者が,著者の実験によって「先生,驚きました,手を開くことができました!」と言うシーンの感動は,子供のころ顕微鏡を覗いたり,セミの羽化を観察したり,月についての本を読んだりして感じたものと同種である。 <BR>
ニュートン力学,ダーウィンの進化論,フロイトの心理学と,科学の革命は常に「人類は特別な存在ではない,人類はこの宇宙という自然の一部である」ことを証明して来た,と著者は言う。それらは人間を「神に選ばれたモノ」の座から引きずりおろした,と考える人が多いようだが違うのだ,と。著者のラマチャンドランはインド人であり,その主張・感覚にはヒンドゥーや仏教の禅宗に近いもんが感じられる。その辺,もしかしたら原書で読んでるアメリカ人より我々の方が理解し易いかも。 <BR> |
関連本棚: |
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知って合点 江戸ことば (文春新書)
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著者: |
大野 敏明 |
出版社: |
文藝春秋 |
評価: |
★★★★☆ |
カテゴリ: |
歴史
民俗
言語
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コメント: |
オレはもともとこのテの話が大好きでよく読むんだが,これもまた目からウロコがボロボロと落ちる面白本,最近の流行で言えば「へぇ」連発でありました。以下オレが「ヘぇ」を発したヤツを2つばかし……。<BR>
(1)「男はつらいよ」で寅さんがいう「タコ社長」の「タコ」は江戸弁では「ばか」の上を行く罵倒語なんであり,その由来は「イカ」だったのだ。……これぢゃなんだか分からないか,将軍の家来には旗本と御家人という2種類があった。もちろん旗本の方が上(身分は大名と同格)なんだが,その区別は将軍に謁見できるかどうかであり,それが許されない御家人達を「お目見得以下」と読んだのだそうだ。旗本の子供は御家人の子供を馬鹿にして「以下」と呼ぶ。「イカ」と罵られたら「タコ」と言い返すしかないぢゃないか。なので,「タコ」というのは「目上のニンゲンを罵って言う罵倒語」なのである。寅さんもあれでタコ社長の方が自分より偉いとは思っているのである(ホントか?)。<BR>
(2)「旦那」も元々は上の旗本,御家人の違いから産まれた言葉なのだ。江戸後期,市場経済の発達に伴って昇給のない武士の生活は相対的に苦しくなり,買い物に行く下女なども雇えなくなって「御用聞き」というシステムが発生した。その御用聞き達は旗本の家では主を「殿様」と呼び,御家人の家では差を付けて「旦那様」と呼んだのである。やがて明治維新が起こり,山の手が薩長出の官員(新政府の役人)で溢れた時,江戸の商人達は彼等を御家人と同格と看做して「旦那」という言葉を使い,田舎者の役人はこれを尊敬語だと思って喜んだ,という話なんですよ,旦那。知ってましたか? |
関連本棚: |
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メディア・リテラシーの方法
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著者: |
アート シルバーブラット |
出版社: |
リベルタ出版 |
評価: |
★★★★☆ |
カテゴリ: |
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コメント: |
監訳者あとがきを引用すれば,「メディアは構成されたものであるという前提のもとに,イデオロギー,自分史,非言語的表現,神話分析の視点からメディアを読み解こう」とし,そうした「メディア製作のさまざまな方法や技法を明らかに」することを目標に書かれた一種の「教科書」である(各章末にレジュメというか復習ドリルみたいのもついてるし)。<BR>
例えばこんな話だ。「となりのサインフェルド」のようなコメディは,主要な登場人物が直面するささいな問題,人間関係の苦労などを扱う。ここには,「成功とは純粋に個人的満足によって測られるものだ」というメッセージが込められている。彼等の社会的活動はそうした個人的欲求の充足と人間関係の構築(あるいは修復)に限定された形でオーディエンスに提示され,しかもその解決方法としてたいていはスポンサーの意に沿った「消費主義的行動」が採用される。映画を観に行くとか,ショッピングをするとか,そうした行為により彼等の「今週の問題」は解決あるいは先送りされるわけだ。<BR>
この本が出色なのは,上のようなメディア作品の構造分析に加えて,それを構成する諸要素,例えば登場人物の表情や動作,容姿や服装から,音声コミュニケーションの諸要素にわたる詳細な考察がなされていることだ。例えば会話における声の大きさは権威や信念の表れとなりうるし,逆に小ささは不安感,服従,曖昧さなどを表現する。<BR>
いやはや,全てのメディアがこの本に研究されていることがらを全て応用してその出力(だんだん作品とは呼びたくなくなってくる)を製作しているワケはない,と思うものの,そんなコトまでと空恐ろしくなるような部分もある。対象をとらえるカメラ・アングルに意味があり,上から撮れば対象を弱く無力に,下から撮れば強さと権威を感じさせるくらいは知っていたが,その水平な移動方向にも意味があり,カメラが文字を読む方向(欧米では…このページもそうだけど左から右)に動く映像は安定を,逆は不安を醸しだすなんて知ってましたか?<BR>
まったく,誰かに読んでもらいたい,というより,ある種の連中にはあんまり読んでいただきたくないような本である。そう思ったのはオレだけぢゃないらしく,地味な学術書にも関わらずオビの文句もこう書かれている。「どなたさまのご用心! 政治家までこんなことお勉強しているんだって……」。確かにそれはヤバいかも。 |
関連本棚: |
柴田邦臣
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蟻の革命―ウェルベル・コレクション〈3〉 (角川文庫)
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著者: |
ベルナール ウェルベル |
出版社: |
角川書店 |
評価: |
★★★★★ |
カテゴリ: |
小説
SF
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コメント: |
「蟻」トリロジーの最終巻である。1995年に最初の「蟻」が,96年に「蟻の時代」が刊行されてから待つこと実に7年,出版元も変わって文庫本での最終巻はちと悲しいが(「蟻」「蟻の時代」は上下2巻の単行本で持っているのだ),それでもこれを読めたことの幸せを素直にかみしめたい。いやぁ人生へのココロノコリが一個減った(いやまだ山ほどあるんだけどね)気分である。<BR>
シリーズ全部について解説すると長くなるのだが,このトリロジーはつまりニンゲンとアリという,共にこの地球上で社会生活を営む2種の生き物の邂逅と対立,そして共生の可能性についての物語である。フランスの郊外都市フォンテーヌブローを舞台に森に住む赤アリたち,そして彼らとのコミュニケーションに成功したニンゲン達が主人公だ。<BR>
この完結編では,森の中で謎の本「相対的かつ絶対的知の百科事典」を拾った拒食症の少女ジュリーと,ニンゲンと共に暮らしニンゲンの文化について深い知識を身につけた赤アリ103号とが合わせ鏡のように「蟻の革命」と「指(アリ達はニンゲンをこう呼ぶ)の革命」を推進する。ニンゲンたちは高校に立てこもって理想社会を作り上げようとし,アリたちは火の使い方を覚えカタツムリに乗って指との「コンタクト」にやってくる。いやぁ読み終わってしまったのが惜しい。まだ読んでないヒトが心底うらやましいぞ。<BR> |
関連本棚: |
勇魚
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『坊っちゃん』の時代―凛冽たり近代なお生彩あり明治人 (アクションコミックス)
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著者: |
関川 夏央 |
出版社: |
双葉社 |
評価: |
★★★★★ |
カテゴリ: |
日本人論
マンガ
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コメント: |
関川夏央・谷口ジローのコンビが実に12年をかけて「近代日本の青春,明治」を描いた漫画シリーズ。 <BR>
第一部「坊ちゃんの時代」で漱石,第二部「秋の舞姫」で鴎外,第三部「かの蒼空に」で啄木,第四部「明治流星雨」で秋水,そして最後の第五部「不機嫌亭漱石」で再び漱石を中心に描かれているが,それら「主人公」はあくまで各々の時代,事件を語る狂言回しとしての役割を担っておるに過ぎず,あたかもバルザックの「人間喜劇」のように総体をもって日本にかつてあった「明治」という時代を描いている。 <BR>
いやいや,これは傑作です。読むべし。
<li> <a href="/%E5%A2%97%E4%BA%95/4575712299">文庫判</a>もありますね。(<a href="/%E5%A2%97%E4%BA%95">増井</a>)
<li>ほう,文庫が出てるの? 揃えることをお勧めしますね。ヘタな明治本よりよっぽどタメになると思います。 |
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マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男
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著者: |
マイケル・ルイス |
出版社: |
ランダムハウス講談社 |
評価: |
★★★★☆ |
カテゴリ: |
野球
ドキュメント
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コメント: |
オビのアオリをそのまま書き写せば「貧乏球団アスレチックスは,なぜ勝ち続けるのか? 小説ではぜったい書けない男たちの熱いドラマ。」 <BR>
アスレチックスというのはサンフランシスコの対岸,オークランドに本拠地を置くメジャーリーグのチームだ。日本人選手もおらず,「A's」という略称を見てニッポンの阿呆な国会議員が「アメリカはすごいな,エイズにかかったヒトのプロ野球チームがあるのか」と言った(知らないヒトは信じないかもしれないが実話です。次から真面目に選挙に行く気になりましたか?)時以来日本の新聞などでメインの話題になったことはない(と思う)。 <BR>
が,このアスレチックス,ここ数年の成績は抜群。本書に寄れば「ニューヨーク・ヤンキーズの1/3以下の年俸総額の選手達を使って,ニューヨーク・ヤンキーズ並みの成績を上げ続けている」。まさに奇蹟のチームなのである。これは,その「奇蹟」を可能にした元二流メジャーリーガーのジェネラル・マネージャー,ビリー・ビーンの哲学と思想(というほど形而上的なモンでもないが)を追ったドキュメンタリー。「野球」を徹底的に科学し,文字通りの意味での「勝利の方程式」を作り上げた男の物語である。 <BR>
オレの読後感を正直に吐露すると「横浜ベイスターズの関係者はみんなこれを読め,他のチームのヤツはお願いだから読まないでくれ」ということになる。あ,あと一言だけ,1998年我らがベイスターズの優勝監督・権堂さんが「送りバントというのはわざわざ敵にアウトを献上するという世にも馬鹿馬鹿しい作戦だ」と言っていたのはデータ的にも圧倒的に正しかったのだ。まだ遅くない,ダイちゃん,権堂さんの采配を思い出そう!<BR> |
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エノケンと“東京喜劇”の黄金時代
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著者: |
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出版社: |
論創社 |
評価: |
★★★★ |
カテゴリ: |
レビュー
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コメント: |
オレは1961年生まれなので当然その全盛時代を知る由もないわけだが,あの筒井康隆をして「子供の頃ボクはエノケンになりたかった,『エノケンのように』ではなくて,エノケンそのものになりかったねぇ」と言わしめた『喜劇王・エノケン』,その片鱗くらいは知っておかねばと出演映画が放送されれば録画・鑑賞に務めている。昨年11月に江戸・東京博物館が行った特別企画「エノケン生誕100年記念映画祭」には「エノケンの千万長者」を観に行ったし……。<BR>
が,この本を読むとやっぱり「最高のエノケン」は映画ぢゃなくて舞台なのだと書いてある。もちろん執筆者の人たちはエノケン・ファンが嵩じて「東京喜劇研究会」なんてのを作っているわけで思い入れたっぷりなのは織り込み済みなんだが,しかしまぁ実に面白そうなんだよね。<BR>
『世界珍探検』(原作はカミ)では,南方で人食い人種に捕まった探検家のエノケン,縛り上げられて火あぶりにされるというところで肝心の酋長が出てこない。しばらく芝居を繋いだあと,エノケン自ら縄をほどき,舞台の袖に入るや「酋長はどうした! てめえなんかクビだこの野郎!」と叫び,しょんぼりした酋長を引っ張り出して来て客席にニヤリ……これは見たいよなぁ。<BR> |
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のらねこ兵☆演芸館
stonechild
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呪いの研究-拡張する意識と霊性
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著者: |
中村 雅彦 |
出版社: |
トランスビュー |
評価: |
★★★☆ |
カテゴリ: |
心理学
民俗
宗教
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コメント: |
愛媛大学で社会心理学を教えている著者は,同時にちゃんと資格を取った神主(神職というのが正確らしいが)でもあり,主に「呪術的実践と神道的世界観の心理学的研究」というのを行っている……そうな。<BR>
映画「死国」にも出て来たが,四国には伝統的に市井のシャーマン「拝み屋」が多数在住し,占い,まじない,加持祈祷などを行っている。彼らの役割,社会的位置などを文化人類学の観点から構造主義的に分析した研究は多い。が,それらの研究の多くは,基本的に彼らの行為の真偽や効果についての言及は避けてきた。本書はそれらの研究とは逆に,呪術や託宣,霊視や念力などの効果を現実のものとして認め,それが機能する心理的世界の模式を提起しようと試みたものである。<BR>
多少牽強付会的な印象もあるが,ユング呼ぶところの「ヌミノーシティ(霊性体験)」を,多くの場合その励起要因となる宗教性から切り離し,逆に全ての宗教がこの「霊性」の顕現に他ならないとする論理展開は興味深く,世界観としても面白い。また,この現象(というかチカラというか)を悪用しての呪詛やオウムのような人心収攬の危険性についてもキチンと言及しており,所謂「トンデモ本」ではない……いやトンデモ本を楽しもうと思って読んでも十分楽しいけどね(笑)。<BR> |
関連本棚: |
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ホワイト・ジャズ (文春文庫)
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著者: |
ジェイムズ エルロイ |
出版社: |
文藝春秋 |
評価: |
★★★ |
カテゴリ: |
アメリカ
小説
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コメント: |
600ページをこえる大冊。この本はエルロイの「暗黒のL.A.4部作」の最終章,1997年に公開されてアカデミ−賞の脚色賞,およびキム・ベイジンガーが助演女優賞を獲得した映画「L.A.コンフィデンシャル」(カーティス・ハンソン監督) に続く日々を描いた物語である。…つまり「L.A.コンフィデンシャル」は「暗黒のL.A.4部作」の第3作目だけを取り出して映画にしたもんなのね。<BR>
ヘビィな小説だ,馳星周絶賛,「暗黒小説」〜オレの定義では「登場人物の誰も好きになれない『どいつもこいつも小説』」の傑作である。前述の映画を観た人ならば,映画でガイ・ピアースが演じるエド・エクスリーと原作の印象の違いに驚くかもしれない。映画とはかなり展開も違っている (一応ネタバラシは避けておく) |
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ハッカーと蟻
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著者: |
ルーディ ラッカー |
出版社: |
早川書房 |
評価: |
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カテゴリ: |
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コメント: |
ハッカー作家,ルーディ・ラッカーの1994年の作品 (翻訳が出たのは96年)。一昨年までアップルのWWDC (World Wide Developer's Conference) の開催場所だったサンノゼのダウンタウンが舞台だったりして (主人公が盗聴を恐れて「サンノゼのフェアモント・ホテルの前にあるうるさい噴水のそば」でわざわざ会話をしたりする) 楽しい。<BR>
いや実際,同じ作者のこれまでの作品に比べて,時代,技術水準その他が現実に近いものに設定されているせいで,特にこの業界に身を置くワタシとしては実に身近な (身につまされる部分も含めて,ね) リアリティのある作品である。以下おおまかなあらスジ。<BR>
シリコン・バレーの最先端企業で家庭用ロボットのソフトウエアを開発している主人公ジャージーは,ある日サイバースペースで一匹の「蟻」を目撃する。会社のスター・プログラマー,ロジャー・クーリッジが開発していた人口生命体だ……。「蟻」はやがて増殖し,まるでウィルスのようにサイバースペースを侵食しはじめる。「蟻」をネットワークに放った犯人として告発されたジャージーは会社も解雇され孤立無援に……。<BR>
とまぁ,スジとしてはなんつか「ハイテク企業陰謀モノ」みたいな感じなのだが,そっちの謎解きは例によって本質ではない。物語のキモは遺伝的アルゴリズム (ああ懐かしい,「バラ」を作った時勉強したぜ) によって淘汰されたロボットの「知性」が「繁殖」する可能性を探ることにあり,またそのような「知性の爆発」にはほぼ無限といっていいサイバースペースを舞台に変異と淘汰が実践されなければならない可能性を示唆している部分にあるのだ。…わかりにくいですか? 読むとわかります(笑) 。<BR>
このヒトが好きなのは,実際自分でもソフトウエアを書くエンジニアでもあるところ (だけでなく「数学者」でもあり,なにより「ガイキチ」だったりするんだが) 。以下のような部分,プログラマーでなければ書けない感覚だと思うんだよね。<BR>
<BLOCKQUOTE>
新しい言語や新しいマシンを相手にする時はいつもそうだが,だれかが,「ほらよ,ジャージー,こいつが部品番号のリストで,こいつがその部品を使って組み立てられる自動車の写真だ」といい,最初のうちは,「くそくらえ,いままで使ってた古い部品で車を組み立てるやりかたならちゃんとわかっているんだ」と思うのだが,やがて好奇心が首をもたげて,新しい部品を使いはじめる。新しい部品は妙な形をしているが−なじみのない論理にもとづいてつくられているから,最初のうちは納得できない−やがてなんとか車輪を一個作ることに成功し,それがちゃんと転がると,もっと興味が湧いてきて,その新しい論理を使ってどんなクールなことができるのか理解しはじめ,そのころにはもう頭の切り替えがすんでいる。こういうことに意欲を燃やし,それを自分で何度も遂行できるという事実が,ぼくをハッカーたらしめているのだといってもいい。</BLOCKQUOTE>
おっと為念,この本では「ハッカー」は「出来のいいプログラマー」,「ハッキング」は「クールなプログラミング作業」という意味で使われている。つまりシステム破りを意味する「クラック」とははっきり分けているので注意してほしい (同じことを「クリプ」と言ったりしてるけどね) 。一応,書いておかないと……。今のニッポンぢゃ主人公と同じ誤解を受けるかも,だからね。<BR> |
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理系白書
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著者: |
毎日新聞科学環境部 |
出版社: |
講談社 |
評価: |
★★ |
カテゴリ: |
ドキュメント
社会
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コメント: |
毎日新聞科学環境部編。オビにはこうある。"文系の王国"日本で全く顧みられることのなかった「理系」の問題に初めて深く切り込んだ渾身のレポート……。それほどのもんか?<BR>
ウチは毎日新聞を購読しているので,一年を越えたこの連載記事もずっと読んでいた。その印象は,最初の頃こそ広く「理系」の問題に目を向けていたが,いつの間にか「理系」イコール「研究者」のことになってしまい,世にある「理系」のヒトビト全般の問題意識からかけ離れて行った,というものだった。……今回こうして一冊にまとめられたものを読んでその印象がかなり正確であったことに残念ながら失望した。<BR>
だいたい「研究者」の待遇に限れば理系よりも文系の方が過酷だと思う。理系の「設備」はそれでもカタチがある分予算が付き易い(モノが高価だから十分でないのは同じだが)。オレの出た大学でエジプト史を研究してたセンセ(例の吉村作治さんほどタレント性はなかった)はよく,国から出る研究費では現地に行くどころか文献蒐集もままならないとぼやいていた。首尾よく博士になれても専門を活かせる就職なんか……それこそ理系の研究者がうらやましくなるくらいに「ない」だろう。<BR>
つまり文理の別と研究者・非研究者の別がごっちゃになっているのだ。なんというか,オレも技術者のハシクレとして働くニンゲンなんだが,世界を変える研究をしているわけではないし今後もその見込みは無い。だが世間的には「理系」の仕事をしているヒトであり,理系的ネガティブイメージで語られる。そういう市井の「理系のヒト」が読んでると,この本に出て来るヒト達はとても縁遠い存在だという気がするのである。<BR>
……こう言えば分かるだろうか。これを作った毎日新聞の記者諸君にお聞きしたい。もし「文系白書」という本が出版されて,開くと大臣にもなるような花形経済学者の話とかマーケティング理論の専門家の話や,源氏物語の文献研究をしている研究者の予算不足についての愚痴や道祖神の分布を調べている女性民族学者が教授にセクハラに遭った話(こんなのこそ文理共通だろ)ばかりが書いてあり,オビには「文系のすべてを浮き彫りにする」とか書かれている。……どんな気がする |
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魚籃観音記 (新潮文庫)
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著者: |
筒井 康隆 |
出版社: |
新潮社 |
評価: |
★★★★★ |
カテゴリ: |
日本
小説
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コメント: |
1997年から2000年にかけて,主に新潮社の雑誌に掲載された作品を集めた短編集 (なぜか一つだけ文芸春秋の「オール読物」掲載作品がはいっている,なんで?) 。<BR>
なんと言っても圧巻は表題作,孫悟空と観音菩薩が姦るという「ポルノ西遊記」である。帯にも「発禁覚悟」とあるがこれはスゴイ。まさに天才筒井康隆の面目躍如,作品中,男性器を表す単語だけで,陰茎,ちんぽこ,ペニス,逸物,陽根,男根,錫杖,珍棒,陽物,魔羅,へのこ,棍棒,男性自身,肉茎,肉棒,一物,大砲,珍宝,巨根,松茸,<b style="color:black;background-color:#ffff66">デチ棒</b>,コック,こね棒……はぁはぁ,こんだけあり,それらがまた適材適所 (笑) ,こーふんするぞ,これは。<BR>
だいたい筒井作品のセックス・シーンというと,大概のヒトが「エディプスの恋人」のあのシーンを想起するらしいのだが,あれはあんまりエッチぢゃない。個人的意見としていままでのベストは「残像に口紅を」の第二部,世界から「あ」と「ぱ」と「せ」と「ぬ」と「ふ」と「ゆ」と「ぷ」と「べ」と「ほ」と「め」と「ご」と「ぎ」と「ち」と「む」と「ぴ」と「ね」と「ひ」と「ぼ」と「け」と「へ」と「ぽ」と「ろ」と「び」と「ぐ」と「ぺ」と「え」と「ぜ」と「う゛」と「す」が消え失せたあとで行われるそれであったが,この「魚籃観音記」はあれにまさるとも劣らない。むしろあれの「饒舌バージョン」とでも言うべきか。<BR>
他の短編では「粗忽電器屋」とでも言うべき「作中の死」が面白い。鼠や犬猫 (が主人公の小説もこの本にはあるのだが) ではなくニンゲンの行いを小説という形で描く以上,意識してあるいは意識せずに身辺の誰彼をモデルとして書くことはどんな作家でもするだろう。が,その行為自体に着目し,思索し,こうした短編にまで昇華するのはやっぱり筒井さんならではという気がする。かなり印象は違うがこれは「虚人たち」の系譜に連なる作品だと思う。<BR>
なお,当然というかオレはこの本を単行本で持っているのだが,そのISBNをAmazonで検索したところ不本意ながら文庫本しか出なかった。文庫を出したらもう単行本は印刷もしないのだろうか。なんだかなぁ。 |
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人はなぜエセ科学に騙されるのか〈上〉 (新潮文庫)
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著者: |
カール セーガン |
出版社: |
新潮社 |
評価: |
★★★★ |
カテゴリ: |
教育
科学
社会
|
コメント: |
なかなか刺激に満ちた本であとで引用したくなるようなフレーズ,データが随所に出て来る。例えば5回続けて表を出したコインを投げて次に裏が出る確率は実は表が出る確率と同じである,ところがヒトはそうは思いたがらない。セーガン博士は言う,「人は乱数にすら意味を求める」。<BR>
このセーガン博士,Appleのなにかのプロダクトのコードネームに自分の名前を使われたこと(もちろんこれは「敬意を表してのこと」だった) に抗議して,アップルの技術者がそのコードネームを「石頭の天文学者」と変えたことがあるほど,厳格で融通の効かない面もあるヒトなんだが (この本の中でもテレビのSFモノを批判してるところなんかはそういう感じがする) ,いやしかしこの本で彼が提起している問題はどこの国でも,特に「先進国」と呼ばれる国において,もっと真剣に考えられるべきだと思う。<BR>
「アメリカの学童は十分な勉強をしていない」という,世界規模の学力テストの結果を見ての彼の意見の感想として,高校1年生が以下のようなことを書いて来るクニはちょっとやばかろう? 「よその国みたいに賢くないのはかえっていいかもしれないと思います。どうしてかというと私達は製品を輸入すればよくて,そういう部品をつくることにばかりお金をかけなくて済むからです」 「よその国の方が優秀だからってそれがなんだって言うんだ。どうせみんなアメリカに来たがってるんぢゃないか」 |
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